若手だけの制度ではない、社内FAが中堅社員の再挑戦を後押しする理由
社内FAは中堅・ベテラン社員のキャリアを変えるきっかけになるか
「今の部署で、このまま定年まで働くのだろうか」。40代や50代になると、そんな思いが頭をよぎることもあるでしょう。仕事には慣れ、周囲からも頼りにされている。それでも、担当業務が固定され、新しい仕事に挑戦する機会が減ってしまう人は少なくありません。
転職を考えても、収入や待遇、家族の生活を考えると簡単には決断できないものです。そんな中堅・ベテラン社員にとって、キャリアを見直すきっかけとなるのが「社内FA制度」です。FAはフリーエージェントの略で、社員が自分の経験や能力を社内の別部署にアピールし、異動を目指す仕組みを指します。
従来の人事異動は、会社が社員の適性や組織の事情を踏まえて配属先を決めることが一般的でした。一方、社内FAでは社員自身が希望する仕事に向けて動けるため、これまでとは違うキャリアを選ぶ機会が生まれます。似た制度に社内公募がありますが、こちらは募集している部署に社員が応募する仕組みです。
社内FAは、一定の条件を満たした社員が自らの実績を売り込んだり、受け入れ部署から声をかけてもらったりする方式が代表的で、企業によって運用方法は異なります。長く勤めた会社を離れずに新しい仕事へ挑戦できることは、転職に慎重になりやすい世代にとって魅力的な選択肢といえるでしょう。
ジョブ型雇用で変わる評価基準、経験豊富な社員に生まれる新たな機会
社内FAが注目される背景には、企業の人事制度の変化も関係しています。その一つが「ジョブ型雇用」です。ジョブ型雇用とは、担当する仕事の内容や必要な能力を明確にし、その職務に適した人材を配置・評価する考え方を指します。従来の日本企業では、入社後にさまざまな部署を経験し、勤続年数や社内での経験を重ねながらキャリアを築く働き方が広く採用されてきました。
しかし、デジタル化や事業環境の変化によって、専門性を持つ人材を必要な部署に配置する動きが進んでいます。ジョブ型の考え方が強まるほど、社員自身も「どの部署に所属しているか」だけでなく、「どのような仕事ができるか」を意識する必要が出てきます。
この変化は、中堅・ベテラン社員にとって必ずしも不利ではありません。長年の業務で培った専門知識や取引先との交渉力、部門間の調整力などは、新しい部署でも生かせる可能性があります。営業経験が豊富な社員が商品企画へ移れば、顧客の声を商品開発に反映できるでしょう。製造部門で品質管理を担当してきた人なら、業務改善や人材育成でも力を発揮できるかもしれません。
ただし、ジョブ型雇用と社内FAは別の仕組みであり、ジョブ型を導入した企業が必ず社内FAを採用するわけではありません。経験年数が長いだけで評価されるとも限らず、新しい職務で求められる能力を備えているかが問われます。過去の実績を別の仕事にどう結びつけるか。その説明ができる人ほど、社内FAを活用しやすくなると考えられます。
ソニーの社内FA制度に見る、経験を生かした人材活用
社内FAの代表的な導入企業がソニーです。同社は1966年から社内募集制度を運用し、2015年には高い人事評価を得た社員にFA権を与える制度を導入しました。ソニーグループの公式採用情報によると、社内募集制度を利用して異動した社員は累計8,000人以上、社内FA制度で権利を付与された社員は累計5,000人以上に達しています。ただし、FA権を付与された人数と実際に異動した人数は異なります。
ソニーの特徴は、社員が希望する部署に応募する制度だけでなく、実績を評価された社員に別の部署から声がかかる仕組みも整えている点です。自分では思いつかなかった仕事に適性を見いだされる可能性もあり、長年同じ部署で働いてきた社員にとって、新しいキャリアを考えるきっかけになるでしょう。
こうした制度には、企業側にもメリットがあります。成果を上げている社員ほど今の部署で頼りにされ、異動の機会を得にくい場合があるためです。本人が新しい仕事に挑戦したくても、上司が人材を手放したがらなければ、希望が通りにくくなることも考えられます。社内FAは、こうした人材の固定化を防ぐ手段の一つです。厚生労働省の2025年版「労働経済の分析」では、2024年の転職者数は331万人と、3年連続で増加しました。
転職者数の増加が社内FAの効果を直接示すわけではありませんが、社員が働く場所を選び直す動きが続くなか、企業が社内に挑戦の機会を用意する意味は小さくありません。ジョブ型雇用によって職務に必要な能力が明確になれば、社員の経験と新しい仕事を結びつけやすくなることも期待されます。
40代・50代の再挑戦、社内FAを生かすために必要な準備
中堅・ベテラン社員が社内FAに挑戦するなら、まず自分の経験を整理することから始めたいものです。営業成績や管理職としての実績だけでなく、取引先との交渉、後輩の育成、業務改善など、普段は当たり前だと思っている仕事にも強みが隠れています。特にジョブ型の人事制度を取り入れている企業では、希望する職務に必要な能力と、自分が持つ経験を照らし合わせることが欠かせません。新しい部署が抱える課題を調べ、自分なら何を改善できるのかを具体的に伝えられれば、選考でも説得力が増すはずです。
反対に、長年の成功体験や役職にこだわりすぎると、新しい環境になじめない可能性も否定できません。異動先では年下の社員が上司になることも考えられるため、経験を生かしながら新しい知識を学ぶ柔軟さも必要になります。
社内FAを検討する際は、応募条件や異動後の待遇も確認しておきたいところです。勤続年数や人事評価の基準、給与・役職の扱い、上司への通知方法などは企業によって異なります。ジョブ型の人事制度では、担当する職務や責任が変わることで処遇に影響する場合もあるため、仕事内容だけで判断するのは避けたいものです。社内FA制度がない企業でも、社内公募やキャリア面談、他部署のプロジェクトへの参加など、仕事の幅を広げる方法を探す余地はあるでしょう。
40代・50代のキャリアは、転職するか今の部署に残るかの二択ではありません。これまで培った経験を別の仕事に生かせれば、会社を辞めずに新しい役割を見つけることも可能です。今の仕事に行き詰まりを感じているなら、自分の経験が社内のどこで求められているのか、一度確かめてみる価値がありそうです。
- カテゴリ
- ビジネス・キャリア
