歯の健康はなぜ「健康寿命」につながるのか?データで見る口と全身の関係
歯の健康は、年齢を重ねてからの暮らしをどう変えるのか
好きなものを食べ、友人と会話を楽しみ、自分の足で外出する。そんな当たり前の日常を、何歳まで続けられるでしょうか。実は、その暮らしを支えているのが歯と口の健康です。歯が悪くなると食事がしにくくなるだけでなく、栄養状態や筋力、体の衰えにも影響する可能性が指摘されています。厚生労働省の2024年「歯科疾患実態調査」によると、80歳で20本以上の自分の歯を保つ「8020」の達成者は推計61.5%。2022年調査の51.6%から増えています。自分の歯を長く残せる人が増えている一方で、歯が残っていれば健康な生活を送れるとは限りません。噛む力や飲み込む力まで含めて、口の健康を考える必要が出てきています。
健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されずに過ごせる期間のことです。厚生労働省が公表した2022年の健康寿命は、男性72.57歳、女性75.45歳。同じ年の平均寿命との差は、男性8.49年、女性11.63年でした。つまり、平均的には人生の最後に、健康上の問題で生活に制限を受ける期間が一定程度生じていることになります。この差を縮めるには、病気を防ぐだけでなく、食べる、歩く、人と交流するといった生活の機能を維持することも大切です。歯の健康が健康寿命と結びつけて語られるのは、口の状態がこうした日常の行動に関わっているためと考えられます。
歯を失うと食生活が変わる、噛む力と体力の意外な関係
歯が少なくなると、まず変化しやすいのが毎日の食事です。硬い肉や生野菜を避け、うどんや柔らかいご飯など、噛みやすいものを選ぶ機会が増えるかもしれません。食べられる食品が限られると、たんぱく質やビタミンなどの栄養が不足しやすくなり、筋肉量や体力の低下につながるおそれもあります。こうした口の機能の小さな衰えは「オーラルフレイル」と呼ばれ、高齢期の健康を考えるうえで注目されています。以前より食べこぼしが増えた、硬いものを避けるようになった、食事中にむせることが増えたといった変化も、見逃したくないサインです。口の衰えは食事の楽しみだけでなく、外出や人との交流にも影響する可能性があります。
歯と健康寿命の関係を調べた日本の高齢者を対象とする2022年公表の追跡研究では、歯の本数が少ない人ほど健康寿命が短い傾向が報告されています。歯が0〜9本の人を比較すると、1日2回以上歯を磨く人は、2回未満の人より65歳時点で見込まれる健康寿命が男女ともに1.6年長いという結果でした。ただし、歯磨きだけで1.6年の差が生まれたと証明されたわけではありません。生活習慣や健康状態など、ほかの要因が関係している可能性も考慮する必要があります。それでも、歯の本数だけでなく、日頃の口腔ケアが健康な生活と関連している点は興味深い結果です。
歯周病が全身の健康に関わる理由、糖尿病との関係も
歯の健康で気をつけたいのは、虫歯だけではありません。歯ぐきに炎症が起こる歯周病も、年齢とともに注意したい病気です。2024年の歯科疾患実態調査では、歯周病の状態を調べる指標の一つである深さ4ミリ以上の歯周ポケットが、80〜84歳の61.6%に認められました。歯周病は初期段階で痛みを感じにくく、気づかないうちに進行することも珍しくありません。歯磨きの際に出血する、歯ぐきが腫れる、口臭が強くなるといった変化があれば、歯科医院で確認してもらうことが勧められます。放置して歯を失えば、食生活にも影響が及びかねません。
歯周病と全身の病気の関係で、特に研究が進んでいるのが糖尿病です。血糖値が高い状態が続くと歯周病が悪化しやすくなり、歯周病による炎症が血糖コントロールに影響することも報告されています。糖尿病患者が歯周病治療を受けることで、血糖管理の改善につながる可能性を示した研究もあります。心血管疾患や認知症との関連も調べられていますが、歯周病が直接の原因になるとまでは断定できません。一方、高齢者では、口の中の細菌が唾液や食べ物とともに気管へ入り、誤嚥性肺炎につながる場合もあります。口の中を清潔に保つことは、歯を守るためだけでなく、全身の健康管理の一部として捉えられています。
歯が少なくても諦めない、健康寿命を支える毎日の習慣
歯の健康を守るために、まず見直したいのが毎日の歯磨きと歯科医院での定期的なチェックです。歯ブラシでは届きにくい歯と歯の間には、デンタルフロスや歯間ブラシを使うと汚れを落としやすくなります。2024年の歯科疾患実態調査によると、過去1年間に歯科健診を受けた人は63.8%で、2022年の58.0%から増加しました。ただ、裏を返せば約3人に1人は1年間に健診を受けていないことになります。虫歯や歯周病は、自覚症状が出た頃には進行している場合も少なくありません。痛くなってから治療するだけでなく、問題が小さいうちに見つける習慣が、歯を長く使い続けることにつながります。
すでに歯を失っている人も、口の健康を保つ方法は残されています。前述の追跡研究では、歯が0〜9本の人のうち、義歯を使用している人は使用していない人より健康寿命が男性で3.1年、女性で3.0年長いという関連が報告されました。これは入れ歯を使えば必ず健康寿命が延びるという意味ではありませんが、噛む機能を補うことの価値を考える手がかりになります。入れ歯が合わない、食事がしにくいと感じたら、そのまま我慢せず歯科医師に相談したいところです。歯の健康は、何本残っているかという数字だけでは測れません。好きなものを食べ、会話を楽しみ、自分らしく暮らせる時間を少しでも長く保つこと。そのために、今ある歯を守り、口の機能を維持する習慣を続けていきたいものです。
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