なぜ食品メーカーは「気分」まで売り始めたのか、新商品から見る変化

「○g」「○%オフ」だけでは差がつきにくい

スーパーやコンビニの食品売り場を歩くと、「高たんぱく」「糖質オフ」「食物繊維○g」と書かれた商品が目に入ります。健康を意識して食品を選ぶ人にとって、こうした数字は分かりやすい判断材料です。メーカーにとっても、「たんぱく質20g」「糖質30%オフ」と表示すれば商品の特徴を短い言葉で伝えられます。健康食品と数字は、長い間とても相性の良い組み合わせでした。

ところが、高たんぱくや低糖質をうたう商品が珍しくなくなれば、似た商品同士の差は見えにくくなります。そこで食品メーカーが目を向け始めているのが、数字では表しにくい健康です。PwCが2026年に27カ国・地域の2万1,808人を対象に行った調査を見ると、消費者が意識しているのは食事だけではありません。睡眠やストレス、体重、見た目、身体のパフォーマンスなど、日々の過ごし方そのものが健康と結びついています。「何kcal食べたか」だけでなく、「今日はよく眠れた」「気分よく過ごせた」といった感覚まで健康の一部として捉える人が増えていると考えられます。

 

「体にいい」から「気分まで満たす」食品へ

食べ物は、おなかを満たしたり栄養を補ったりするだけのものではありません。疲れた日に甘いものが欲しくなったり、仕事の途中でコーヒーを飲んで気持ちを切り替えたりすることがあります。こうした何気ない行動を見ると、食事と気分はもともとかなり近い関係にあったといえるでしょう。その関係を商品開発に取り込もうとする動きが目立ってきました。

米国の国際食品情報評議会(IFIC)が2024年に18~80歳の3,000人を調査したところ、76%が「食べ物や飲み物は精神的・感情的な健康に大きく、またはある程度影響する」と回答しています。65%は逆に、精神的・感情的な状態が食品や飲料の選択に影響すると答えました。こうした需要を意識し、リラックスや睡眠、集中、気分転換といった場面を想定した商品も増えています。ただ、そこで問われるのは配合成分だけではありません。2026年のInnova Market Insightsの調査では、世界の消費者の24%が、ぜいたく感のある食品や飲料について、感覚的な気分転換やセルフケアを通じて気分を良くすると答えています。香りや見た目はもちろん、「ザクザク」「もちもち」「ふわふわ」といった食感まで、商品の楽しさをつくる要素になっています。

 

健康食品にも「おいしさ」と「気分」が欠かせない

健康を意識しているからといって、毎日の食事を栄養成分だけで決める人は多くないでしょう。IFICの2024年調査では、米国の消費者が食品や飲料を購入するときに影響を受ける要素として、「味」が85%で最も高く、「価格」が76%、「健康」が62%でした。健康を気にしながらも、結局は「おいしそう」「この値段なら買える」という感覚が商品選びに強く関わっています。

この消費者心理を考えると、食品開発が成分競争だけでは難しくなっている理由も見えてきます。たんぱく質15gの商品を20gに増やすことは、分かりやすい改良です。ただ、それだけで「また買いたい」と思ってもらえるとは限りません。朝なら手軽に食べられること、午後なら仕事の合間に少し気分転換できること、夜ならゆっくり楽しめることも購入理由になります。2026年のInnova Market Insightsでは、世界の消費者の74%がストレスへの対処として気分を良くするために食品や飲料を求めるというデータもあります。「何が入っている商品か」だけでなく、「いつ食べたくなる商品か」を考えることが、新商品づくりでは欠かせなくなってきたと思われます。

 

環境への配慮も「選びやすさ」の中に入ってくる

健康をめぐる視線は、自分の体や気分だけに向けられているわけではありません。食品がどこでつくられ、どんな原料を使い、どのような包装で届き、最後にどれだけ廃棄されるのか。食品ロスや包装資材、原材料の調達といった問題も、商品開発と切り離しにくくなっています。環境への負担を減らした食品を選びたいという考え方は、健康を「自分だけの問題」として見ない価値観ともつながっています。

とはいえ、環境に配慮しているだけで商品が選ばれるほど単純ではありません。IFICの2024年調査では、食品購入に「環境の持続可能性」が影響するとした米国の消費者は31%でした。味の85%、価格の76%、健康の62%と比べれば低い数字です。つまり、おいしくて、価格にも納得でき、そのうえで環境にも配慮されているという順番が現実的でしょう。

これからの食品開発では、カロリーや糖質、たんぱく質といった数字を土台にしながら、味、食感、気分、食べる場面、環境までを一つの商品としてどうまとめるかが問われそうです。「何g入っているか」を競う時代から、「これを食べると、どんな時間を過ごせるか」まで考える時代へ。食品売り場に並ぶ新商品を眺めてみると、そんな変化が少しずつ見えてくるのではないでしょうか。

カテゴリ
健康・病気・怪我

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