シニア向け健康食品市場が拡大する背景と機能性表示制度の役割

「高齢者が増えた」だけでは説明できない健康食品市場

日本では、65歳以上を特別な消費者層として扱うことが難しくなってきました。総務省によると、2025年9月時点の65歳以上人口は3,619万人で、総人口に占める割合は29.4%。ほぼ3人に1人が65歳以上という状況です。65歳以上の就業者も930万人に達しており、仕事を続ける人、趣味や旅行を楽しむ人、介護を受けながら暮らす人など、生活スタイルは大きく異なります。「シニア向け」という言葉だけでは、もはや一括りにできないほど幅広い層になっています。

健康食品に求められるものも変わりました。以前は「栄養を補う」「健康を維持する」といった大きな目的の商品が目立ちましたが、現在は筋力、睡眠、血圧、血糖値、認知機能など、日常の悩みに合わせた商品が店頭に並びます。ただ、健康食品市場全体が高齢化とともに伸び続けているわけではありません。矢野経済研究所によると、国内健康食品市場は2024年度の9,221億7,000万円から、2025年度には9,147億1,000万円へ0.8%縮小する見込みです。物価高や紅麹問題による消費者心理への影響もあり、「高齢者が増えたから市場も伸びる」という単純な構図では捉えられません。むしろ変化しているのは市場の中身でしょう。

 

シニアの関心は「長生き」から「どう暮らすか」へ

65歳で仕事を続けている人と、80代で食事量の減少に悩む人では、健康食品に求める役割も違います。元気に動ける時期には体調管理や生活習慣が気になり、年齢を重ねれば筋力や食欲の低下も身近な問題になります。そこでシニア・高齢者ケアの分野で注目されているのが、低栄養やフレイルです。フレイルは加齢によって心身の働きが低下し、健康な状態から要介護状態へ移る途中に位置する状態を指します。

若い頃には体重を減らすことばかり気にしていた人でも、高齢になると同じ考え方が適切とは限りません。厚生労働省では、65歳以上についてフレイル予防と生活習慣病予防の両方を踏まえ、目標とするBMIを21.5~24.9kg/㎡としています。食事量が減れば、エネルギーとともに、たんぱく質やビタミン、ミネラルなども不足しやすくなります。こうした事情から、シニア向け食品にも「カロリーを抑える」だけではない視点が必要になりました。しっかり食べる、必要な栄養を補う、筋力を保つ。健康食品市場でも、年齢より「これからどんな生活を続けたいか」に合わせて商品を選ぶ流れが強まっています。

 

選択肢が増えたからこそ「何を選べばいい?」が生まれる

スーパーやドラッグストアを見れば、健康をうたった商品が数多く並んでいます。血圧が気になる人向け、睡眠の質を意識した商品、記憶力をサポートする商品など、その種類はかなり細かくなりました。選択肢が増えるのは便利ですが、消費者からすると「結局、自分にはどれが合っているのか」と迷いやすくなります。こうした商品選びに関わっているのが、2015年に始まった機能性表示食品制度です。事業者が安全性や機能性に関する科学的根拠などを消費者庁へ届け出ることで、商品の機能を表示できる仕組みになっています。

この分野は健康食品市場のなかでも存在感を増してきました。矢野経済研究所によると、機能性表示食品の国内市場規模は2023年度の6,813億1,000万円から、2024年度には7,251億2,000万円へ6.4%拡大したと推計されています。ただし、ここで気をつけたいのが「機能性表示食品=国が効果を認めた食品」ではないことです。国が商品ごとに審査して許可する特定保健用食品、いわゆるトクホとは制度が違います。機能性表示食品は、事業者の責任で科学的根拠などを届け出る仕組みです。パッケージに書かれた言葉だけを見るのではなく、「誰を対象に、どんな研究をもとに表示しているのか」まで確かめることが、商品選びのヒントになります。

 

「効きそう」だけでは選ばれにくい時代へ

機能性表示食品を取り巻く環境は、2024年に起きた紅麹関連製品の健康被害問題をきっかけに大きく見直されました。健康被害情報の提供が義務化され、天然抽出物などを原材料とする錠剤やカプセル剤等では、GMPと呼ばれる製造・品質管理基準も制度に組み込まれています。表示ルールも改められ、2026年9月1日以降に製造される対象食品には新しい規定が適用されています。市場が大きくなったからこそ、商品の数だけではなく、安全性や情報の伝え方まで問われる段階に入ったといえます。

シニア向け健康食品も、単に「高齢者向け」と書けば選ばれる市場ではなくなりつつあります。元気に働き続けたい人と、食事量を補いたい人では必要なものが違い、医薬品を服用している人では食品との組み合わせにも注意が必要です。健康食品は食事や医療の代わりではなく、毎日の暮らしを補う選択肢の一つ。その前提があるからこそ、商品の機能だけでなく、安全性や科学的根拠を分かりやすく伝える姿勢が欠かせません。「何に効きそうか」だけではなく、「自分に必要なのか」「どんな根拠があるのか」を見て選ぶ。シニア市場の広がりとともに、健康食品との付き合い方も変わり始めています。

カテゴリ
健康・病気・怪我

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