日本のリプロダクティブライツはどこまで進んだ?法整備と残る課題
「自分の身体は自分で決める」は、どこまで実現している?
リプロダクティブライツは、日本語では「性と生殖に関する権利」と訳されます。妊娠や出産を望むか、避妊や不妊治療をどうするか、人工妊娠中絶を選ぶか。こうした身体や人生に関わることを、必要な情報を得たうえで本人が決める権利を指します。中絶だけの話ではありません。性教育や性感染症の予防、妊娠・出産に関する医療、性暴力からの保護なども含まれます。言葉だけを聞くと難しく感じますが、「自分の身体や将来について、自分で選べるか」と考えれば、かなり身近なテーマでしょう。
日本の政策でもリプロダクティブ・ヘルス/ライツは扱われています。2026年3月に閣議決定された第6次男女共同参画基本計画にも、「性と生殖に関する健康と権利」の考え方が盛り込まれました。ただ、国の計画に書かれたからといって、必要な医療を誰もが同じ条件で利用できるわけではありません。住んでいる場所や医療機関の数、費用などによって選択肢が変われば、制度として認められた権利と日常生活との間に差が生まれます。日本の現在地を知るには、法律の文面だけではなく「必要な時、本当に使えるのか」まで見る必要がありそうです。
経口中絶薬が承認されても、住む場所で選択肢は変わる
日本の中絶医療に大きな変化があったのは2023年4月です。国内初の経口中絶薬「メフィーゴパック」が承認され、従来の手術に加えて薬による中絶を選べるようになりました。対象となるのは、子宮内妊娠が確認された妊娠63日、妊娠9週0日以下の人です。国内第Ⅲ相試験では120人中112人が薬剤投与後24時間までに人工妊娠中絶に成功し、成功率は93.3%でした。長く手術が中心だった日本で別の方法が加わったことは、大きな変化といえるでしょう。
ただし、メフィーゴパックは一般の薬局やインターネットで購入できません。使用できるのは、母体保護法指定医師が所属する医療機関です。2024年8月時点では、厚生労働省の審議会で使用可能な施設が全国190施設、8県には対応施設がなかったことも報告されています。その後、施設数が変わっている可能性はありますが、導入当初から地域差があったことは確かです。都市部なら医療機関を選べても、地方では遠方まで移動しなければならないケースも考えられます。薬という選択肢が増えても、使える場所が限られていれば、その恩恵を誰もが同じように受けられるとは限りません。
配偶者同意はなぜ残っているのか
日本で人工妊娠中絶を行う際の基本的なルールを定めているのが母体保護法です。身体的または経済的な理由によって、妊娠の継続や分娩が母体の健康を著しく害するおそれがある場合などに、指定医師が人工妊娠中絶を行えるとされています。中絶できる時期は原則として妊娠22週未満です。そして、この法律をめぐって長く議論されているのが配偶者同意です。母体保護法には本人と配偶者の同意を得る規定があり、配偶者が分からない場合や意思を示せない場合などは本人だけの同意で足りるとされています。
問題が表れやすいのは、夫婦が普通に話し合える状況ではない時でしょう。別居している、離婚について話し合っている、相手との連絡そのものが大きな負担になっている。そんな状況で妊娠が分かった場合、配偶者という第三者の意思を制度上どう扱うかは切実な問題になります。現在の母体保護法は、1948年に成立した優生保護法を前身としています。その後の改正で法律の目的や内容は変わりましたが、妊娠や出産を本人だけでなく家族や医療者も関わる問題として扱ってきた制度の歴史があります。「自分の身体について自分で決める」という考え方とのずれが議論され続ける背景には、こうした事情もあると考えられます。
緊急避妊薬が薬局で買えても、そこで話は終わらない
避妊をめぐる環境も2026年に動きました。2月2日から、一定の要件を満たした薬局や店舗で緊急避妊薬の販売が始まっています。以前は医療機関を受診して処方を受ける方法が中心だったため、必要になった時に薬へアクセスする方法が増えました。厚生労働省は販売可能な薬局などの一覧を公開し、2026年9月3日時点でも更新しています。仕事や学校があり、医療機関の診療時間に受診しにくかった人にとっても、選択肢が広がったといえます。
とはいえ、コンビニで一般用医薬品を買うように、どこでも同じ条件で購入できるわけではありません。厚生労働省も、在庫や販売できる薬剤師の勤務状況について、来店前に電話で確認するよう案内しています。経口中絶薬の承認や緊急避妊薬の薬局販売を見ると、日本の制度が変わってきたことは分かります。その一方で、配偶者同意や医療機関の地域差など、本人の選択を左右する条件は残ったままです。制度ができたかどうかだけで前進を判断するのではなく、必要になった時に無理なく利用できるかまで確かめる。リプロダクティブライツをめぐる議論は、そんな現実的な段階に入っているのではないでしょうか。
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