速食いだけではない?咀嚼力と肥満の関係から考える毎日の食習慣

「よく噛む」だけでは語れない咀嚼と肥満の関係

体重が気になったとき、食べる量やカロリー、糖質などを見直す人は多いでしょう。しかし、肥満との関係が研究されているのは食事の内容だけではありません。「どのくらいの速さで食べるか」「食べ物をきちんと噛み砕けるか」といった普段の食べ方や口の機能も、体重との関係を知る手がかりになっています。

2025年に「Journal of Dentistry」に掲載された大阪大学などの研究では、大阪市の9〜10歳の児童1,403人を調査しました。咀嚼能力は、噛むことで色が変化するガムを使って測定しています。その結果、速食いの児童は肥満との関連を示すオッズ比が1.73、咀嚼能力が低い児童では1.50でした。男児に限ると、速食いが1.84、口いっぱいに食べ物を入れる習慣が1.59、低い咀嚼能力が1.63となり、速食いと低い咀嚼能力の両方に該当する場合は3.00まで上昇しました。一方、女児では、それぞれの項目について統計的に有意な関連は確認されていません。単純に「何回噛んだか」だけではなく、食べるペースと食べ物を処理する能力の両方に目を向けた点が、この研究の特徴といえます。

 

「噛む回数」と「噛める力」は分けて考える

「よく噛んで食べること」と「しっかり噛めること」は、似ているようで意味が異なります。咀嚼回数を増やすのは食べ方の工夫ですが、咀嚼能力とは、食べ物を細かく噛み砕いて飲み込みやすい状態にする口の機能を指します。今回の研究も噛んだ回数を数えたものではなく、色が変わるガムを使い、どの程度しっかり咀嚼できるかを評価しました。厚生労働省も「噛むこと」と「噛めること」を分けて捉えており、歯を失って噛みにくくなると食べられる食品が限られ、栄養摂取のバランスが低下する可能性を指摘しています。

では、咀嚼能力の低さはなぜ肥満と関連するのでしょうか。現時点では、はっきりした答えは出ていません。十分に噛めない人は、硬さや繊維のある食品より、口の中で処理しやすい食品を選びやすくなる可能性があります。食べる速度が速ければ、一口を十分に処理しないまま次の一口へ進む食べ方にもつながるかもしれません。ただし、「噛めないから速食いになり、その結果として太る」という因果関係が今回の研究で証明されたわけではありません。ある時点の状態を調べた横断研究であり、食事内容や身体活動量など十分に評価されていない要因もあります。咀嚼能力の低さを肥満の原因と決めつけるのではなく、食習慣や口の状態を確認する一つの材料として捉えるのが妥当でしょう。

 

46万人規模の研究でも注目された「食べる速さ」

速食いと体重の関係は、子どもだけの話ではありません。29研究、計46万5,155人を対象としたシステマティックレビューとメタ解析では、食べる速度が速い人は遅い人と比べ、メタボリックシンドロームとの関連を示すオッズ比が1.54、中心性肥満も1.54でした。高血圧は1.26、中性脂肪高値は1.29、空腹時血糖高値は1.16と、複数の指標で関連が報告されています。研究によって食事速度の調べ方などが異なるため数字の扱いには注意が必要ですが、速食いと肥満や代謝異常との関連は、一つの調査だけで指摘されているものではありません。

だからといって、毎食「一口30回」を数える必要はないでしょう。食品の硬さや一口の量によって、必要な咀嚼回数は変わります。まず確認したいのは、食事がいつも短時間で終わっていないか、口いっぱいに詰め込んでいないか、飲み込む前に次の一口を運んでいないかといった普段の行動です。急いで食べる癖があるなら、一口の量を少し減らし、飲み込んでから次の一口を運ぶだけでもペースは変わります。野菜や肉など、ある程度噛みごたえのある食品を無理なく取り入れることも、食べ方を見直すきっかけになると考えられます。

 

肥満対策を「食べる量」だけで終わらせない

ダイエットというと、「ご飯を減らす」「間食をやめる」といった食事制限を思い浮かべがちです。もちろん摂取エネルギーは体重管理に関係しますが、それだけを気にすると、普段の食べ方を見落としてしまいます。厚生労働省も、疫学調査から速食いの習慣がある人には肥満者が多いとして、「ゆっくりとよく噛むこと」を肥満対策の一つとして紹介しています。今回の研究を踏まえると、そこに「十分に噛めているか」という口の機能も加えて考える余地がありそうです。

もちろん、よく噛むだけで体重が減るわけではありません。体重には食事の量や内容、運動、睡眠、生活リズムなど多くの要素が関係します。今回の小児研究も、咀嚼能力の低下が肥満を引き起こすと証明したものではなく、結果をそのまま成人に当てはめることはできません。
それでも、食事改善を「何を食べるか」だけで終わらせず、「どんな速さで食べているか」「きちんと噛めているか」まで振り返る価値はあるでしょう。以前より硬いものを避けるようになった、片側だけで噛むことが増えたと感じるなら、歯や口の状態を確認するきっかけにもなります。
食事を大きく変える前に、自分の食べるペースや噛み方を一度意識してみる。無理なく続けられる食習慣の改善は、そんな身近なところから始められるのではないでしょうか。

カテゴリ
健康・病気・怪我

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