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「僕の料理は遊びと反逆」ーー道場六三郎の味と思想を次世代につなげる「日比谷ろくさん亭」【東京都千代田区】

ローカリティ!

写真は、左から料理長の舘野雄二さん、銀座ろくさん亭の女将の道場照子さん、マネージャーの鮫島德稔(のりとし)さん

2026年9月、東京ミッドタウン日比谷の3階にオープンした「日比谷ろくさん亭」。

店に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが、壁に掲げられた道場六三郎氏の言葉です。

「料理は想いやり」

「僕の料理は、遊びと反逆」

人気のテレビ番組「料理の鉄人」の初代“和の鉄人”として知られ、日本料理の世界に新しい風を吹き込んできた道場氏の言葉は、このお店の真髄とも言えます。実際に料理を味わい、店をつくる人たちの話を聞いていくと、「想いやり」や常識にとらわれない「遊び心」が息づいていることが感じられました。

ただ、「日比谷ろくさん亭」は、1971年に開業した「銀座ろくさん亭」など、既存のお店をそっくりそのまま再現するお店ではありません。

もっと気軽に。もっと新しく。

道場六三郎の料理の思想を受け継ぎながら、今の時代に合わせて新たな形へと更新している新業態のお店です。

「みちば」の味を、もっと気軽に。長年のファンから初めて訪れる人までが楽しめるお店へ

「日比谷というおしゃれな立地で、銀座よりももっとカジュアルに、女性にも来ていただきたいと思っています」

そう話すのは、銀座ろくさん亭の女将で、道場六三郎氏の娘でもある道場照子さん。

銀座のろくさん亭には、長年通い続けるファンも多くいます。一方で、若い世代にとっては、少し敷居の高い店という印象もあるかもしれません。そこで日比谷店では、これまでのろくさん亭が大切にしてきたものを残しながら、より気軽に立ち寄れる店を目指したそうです。

店の入口は広く取られ、暖簾(のれん)や内装もスタイリッシュで入りやすい作りになっています。

マネージャーの鮫島德稔(のりとし)さんは、その狙いをこう話します。

「銀座店よりカジュアルに立ち寄れるお店にしたい。一方で、今までのお客様の期待にも応えたい。道場さんらしさを残しながら、新しくカジュアルにすることを意識しました」

単純に価格帯や雰囲気をカジュアルにするのではなく、長年ろくさん亭を愛してきた人が訪れても「道場らしい」と感じられ、初めて訪れる若い世代にも入りやすい。その二つを両立させようとしているのです。

40年以上、道場六三郎とともに料理を作り出してきた料理長・舘野氏

その「道場らしさ」を料理で支えているのが、料理長の舘野(たての)雄二さんです。舘野さんは、40年以上にわたり道場氏とともに料理をつくってきた料理人です。

「舘野さんは道場さんと40年ともにしてきたお弟子さんです。しっかりと道場の味を継承できる方であることが、このお店にとって重要だったんです」

と鮫島さん。

長年そばにいた舘野料理長でないと、受け継げない味や思想があるのでしょう。

しかし、舘野さんの話を聞いていると、受け継いでいるのは、完成された「味」だけではないようです。

「ライブ感を大切にしたいと思っています」

舘野さんが料理について語る中で感じられたのが「食べる人に料理というライブを楽しんでもらう」という発想でした。

客自身が塩を振る。

食材を自分で巻く。

岩塩の塊に自分でカボスを絞る。

料理人がすべてを完成させて提供するのではなく、最後に食べる人が自分好みに仕上げるように設計されているのです。

「食材の組み合わせ方にも、いろいろなアイデアを入れています。食べながら、頭の中でもライブ感を楽しんでもらいたいです」

料理は、皿が置かれた瞬間に完成するのではありません。

どう食べようかと考え、手を動かし、味の変化まで楽しむ。それ自体が、一皿を味わう体験の一部になっています。

そこには、道場六三郎氏が掲げる「遊び」という言葉にも通じるものを感じました。

食べる人によって違うから、ソースはあえて別添えに

舘野さんの料理には、遊びだけではなく丁寧な配慮もあります。

例えば、料理によってソースがあえて別添えにされています。理由を尋ねると、舘野さんは「食べるスピードは、お客様によって違うから」と話していました。

料理が提供されてすぐ食べる人もいれば、会話を楽しみながらゆっくり食べる人もいる。最初からソースをかけてしまえば、時間とともに食感や味のバランスが変わってしまう料理もあります。だからこそ、最後にソースを合わせるタイミングをお客さま自身に委ねているのです。

「誰でも、おいしい状態で食べられるようにしたいんです」

目の前にいる人が、どんな速度で、どんなふうに料理を食べるのかまで想像し、その人に一番いい状態で食べていただくこと。料理人としての「想いやり」が込められています。

道場六三郎の和食に、「そばがみ」の技を掛け合わせる

日比谷ろくさん亭には、もう一つの系譜があります。

この場所で、以前営業していた名店「そば処 そばがみ」です。そばがみの主人・神谷昌孝氏は、1995年に開業した「乃木坂 神谷」でミシュランガイド東京の星を獲得し続け、懐石に寿司(すし)や蕎麦(そば)を組み込んだ独自のスタイル「懐石くずし」で高い評価を得てきました。

日比谷ろくさん亭では、その蕎麦の技も受け継ぎながら、道場六三郎氏が培ってきた和食の感性を融合させています。

このお店は、道場六三郎の料理、舘野料理長が40年以上受け継いできた技、「そばがみ」が培ってきた蕎麦が掛け合わさった新しいお店なのです。

道場氏自身が「僕の料理は、遊びと反逆」と語っていることを考えると、過去の料理をそのまま守り続けるよりも、むしろこうして新しいものを取り込みながら変化していくことの方が、「道場らしい」のかもしれません。

「遊び」と「想いやり」を感じる料理を味わう

今回は、実際にお店で出されている料理を味わうことで、「想いやり」や常識にとらわれない「遊び心」を感じることができました。

まずは、先付けの「からすみ蕎麦」です。前身の「そばがみ」時代から親しまれてきた一品だそうで、パルメザンチーズ、茗荷(みょうが)、大根おろしを合わせる意外な組み合わせですが、味に奥深さを感じさせます。

前菜は、「かぼちゃといちじくの白和え」「鴨ロースと蕎麦掻(そばがき)の揚げだし」の小鉢2種に、「チーズの黄金焼き」「湯葉豆腐かぐら味噌」「鮎の一夜干し」「小鯛の菊花〆」「鮑(あわび)の串焼き」などの酒肴です。全てのお料理に遊び心がありつつ、絶妙なバランスが取れていて、感動しました。

こちらは、鮮魚二種盛り“塩しゃぶ仕立て”と、トマトの姿焼きです。岩塩の塊に自分でカボスを絞って、お刺身をさっとつけて食べるスタイル。初めての体験でしたが、お刺身の味が引き立っていました。また、熱々のトマトの中には生姜あんが。鶏肉、タマネギ、ホタテ、シイタケなどが入っている夢のようなトマトです。

強肴(しいざかな)は、黒毛和牛肉ももと亀の子のローストです。黒ニンニクソースと胡麻たれが添えられていて、自分でお好みの方につけて食べます。この黒ニンニクソースは牛の背脂を約3時間煮込んで仕上げているとのことで、想像以上に深い味わいでした。

最後の食事は粗挽きのニ八蕎麦の細麺と太麺です。お出汁だけではなく、サンラーつけだれもあり、蕎麦の風味を引き立てます。

見ているだけでも、「おいしそう!」だけではなく、「楽しそう!」と思えるライブ感が伝わってくるのではないでしょうか。考え抜かれた料理に舌鼓を打つばかりでした。

得意ではなかった「書」も、料理人として必要だから続けた

店の壁に掲げられている道場氏の書について、照子さんは興味深い話をしてくれました。

実は道場氏は、もともと文字を書くことが得意だったわけではなかったそうです。しかし料理人として、メニューを自分で書く必要があったため、筆を持つことが多くなったそうです。例えば、制限時間内に料理を仕上げるテレビ番組「料理の鉄人」でも、まずメニューを書かなければ、他の料理人たちは何をつくるのか分かりません。限られた時間の中で、考えた料理をすぐ文字にしなければならなかったのです。

そうして残されてきた言葉が、今、日比谷の店の壁に掲げられています。

95歳の今も発信を続ける道場六三郎。この味を、次の世代へ

道場氏は95歳となる現在もYouTubeなどを通じて、料理や食について発信を続けています。長い料理人人生を経ても、料理について考え、伝え続けています。

そして日比谷ろくさん亭には、40年以上にわたり道場氏と料理をつくってきた舘野料理長や、その姿を間近で見てきた道場照子さんや鮫島さんをはじめ、これまでろくさん亭を知らなかった若い世代にも、この味を届けようと、新しい店のあり方をつくる人たちがいます。

「料理は想いやり」

「僕の料理は、遊びと反逆」

店を訪れる前、この言葉は道場六三郎という料理人の哲学を表したものだと思っていました。しかし、料理を味わい、店をつくる人たちの話を聞いていると、それだけではないように感じました。

食べる人に合わせて、料理の出し方を変える。

客自身が料理に参加できる「ライブ感のある遊び」ができる。

銀座で55年間培ってきたものを守りながら、「そばがみ」の技を取り込み、まったく新しいお店をつくる。

受け継ぐことは、同じものを残し続けることではありません。時代や食べる人に合わせて変えながら、それでも根底にあるものは失わないことなのかもしれません。

「遊びと反逆」を掲げ、常識にとらわれない料理をつくり続けてきた道場六三郎氏。その精神を受け継ぐ店だからこそ、「日比谷ろくさん亭」もまた、銀座ろくさん亭のコピーではなく、新しい“みちば”として始まっているのです。

情報提供元:ローカリティ!

丸山 夏名美
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