情報にも「偏食」がある?アテンションエコノミーが変える私たちの判断力

情報にも栄養バランスが必要?「情報的健康」という新しい考え方

朝起きてスマートフォンを開き、ニュースやSNSを確認する。通勤中は動画を眺め、仕事の合間にも通知が気になって画面を見る。そんな毎日を送っていると、特別に情報を集めているつもりがなくても、頭の中はさまざまな話題でいっぱいになります。気づけば30分もSNSを見ていたり、ニュースを読んだだけで疲れてしまったりすることも珍しくありません。情報が簡単に手に入る便利さの裏で、私たちは必要のない情報まで大量に受け取る生活に慣れてしまったのかもしれません。

こうした情報との付き合い方を、健康という視点から捉え直す考え方が「情報的健康」です。食事で栄養の偏りを気にするように、情報についても量だけでなく、質や種類、受け取るタイミングを意識しようという発想です。甘いものばかり食べていては栄養が偏るように、刺激的なニュースや自分の意見に近い投稿ばかり見ていると、物事を一方向から捉えやすくなります。情報的健康は、単にスマートフォンから離れるデジタルデトックスとは少し異なります。情報を遮断するのではなく、必要な情報を取り入れながら、落ち着いて考えたり判断したりできる状態を保つことを目指しています。

 

なぜSNSは見続けてしまうのか、アテンションエコノミーの仕組み

情報を見続けてしまう理由は、私たちの意志の弱さだけでは説明できません。その背景にあるのが「アテンションエコノミー」です。人々の関心や注意を集め、それを広告収益などにつなげる経済の仕組みを指します。SNSや動画配信サービスの多くは、無料で利用できる代わりに広告が表示されます。利用者が長く滞在し、多くの投稿に反応するほど、広告を届ける機会も増えるため、サービスを提供する企業には利用者を引きつけ続ける理由が生まれます。次々に流れる短い動画や、思わず押したくなる見出し、途切れることのないおすすめ投稿も、こうした仕組みと無関係ではありません。

2026年版の総務省「情報通信白書」によると、日本でオンラインの最新ニュースを知る方法として「ニュースサイト・アプリからのおすすめ情報を見る」と回答した割合は53.2%、「SNSの情報を見る」は46.5%でした。一方、ニュースの発信元を頻繁に確認する人は19.1%にとどまっています。便利なおすすめ機能に頼る一方で、情報の出どころを十分に確認していない人も少なくないことがうかがえます。さらに、SNSでは過去に見た投稿や反応した内容をもとに、好みに近い情報が表示されやすくなります。便利な仕組みですが、気づかないうちに同じ意見ばかりに囲まれ、異なる考え方に触れる機会が減ってしまう可能性も否定できません。

 

情報の「偏食」は、知らないうちに判断を狭めてしまう

好きな食べ物だけを選んでいると栄養が偏るように、情報にも偏りが生まれます。自分と似た意見の投稿を繰り返し見ているうちに、それが世の中の常識だと思い込んでしまうこともあるでしょう。こうした状態に関係するのが「フィルターバブル」と呼ばれる現象です。SNSや検索サービスが利用者の好みに合わせて情報を選ぶことで、異なる意見が届きにくくなることを指します。特に政治や社会問題、健康、投資などの話題では、偏った情報が判断に影響する可能性があります。反対意見を知らないまま相手を批判したり、根拠の乏しい健康情報を信じたりする危険も考えられます。

2026年版の消費者白書では、インターネット上で自分向けの情報が優先的に表示されることについて、回答者の68.6%が「関心を引くために根拠のない情報、虚偽の情報が混ざっていると感じる」と答えています。一方、「自分に合った情報が表示されていると感じる」は44.3%でした。情報の個別化に便利さを感じながらも、その内容に不安を抱いている人が多いことがわかります。しかも、問題は誤った情報だけではありません。怒りや不安を誘うニュースばかりを追いかけたり、他人の生活と自分を比べ続けたりすれば、気持ちが落ち着かなくなることもあるはずです。情報を知ることは必要ですが、すべての話題を追い続ける必要はありません。情報の量よりも、自分にとってどんな影響が残るかを意識したいところです。

 

情報を減らすより、選び方を変えることから始めたい

情報的健康を意識するからといって、SNSをやめたり、ニュースを見ない生活に切り替えたりする必要はありません。食事でも好きなものを楽しみながら栄養バランスを整えるように、情報も無理なく付き合い方を変えていくことができます。朝起きてすぐSNSを開く習慣があるなら、ニュースを見る時間を決めてみる。動画を次々に再生してしまうなら、自動再生を止める。通知が気になって仕事に集中できない場合は、必要な連絡だけが届く設定に変えるのも一つの方法です。自分が何を知りたくてスマートフォンを開いたのかを意識するだけでも、目的のない閲覧を減らしやすくなると考えられます。

また普段読まない新聞やニュースサイトを見たり、気になる話題について異なる立場の意見を調べたりすることで、これまで気づかなかった視点に出会えるかもしれません。ただし、どんな意見も同じように信じるのではなく、発信元や根拠を確かめることが前提です。そして、情報的健康を個人の努力だけに任せるのも限界があるでしょう。SNSや動画配信サービスを運営する企業には、刺激の強さだけで情報を評価しない仕組みや、利用者が表示内容を調整しやすい設計が求められます。

情報を自由に選べることと、選ばされていることは同じではありません。毎日目にする情報が、自分の知識を広げているのか、それとも同じ考えを強めているだけなのか。ときどき振り返ってみることが、情報との無理のない付き合い方につながるのではないでしょうか。

カテゴリ
インターネット・Webサービス

関連記事

関連する質問