豊かな暮らしの基準が変わった?生活者がいま求める『理想の生活』
豊かな暮らしは「モノが多いこと」ではなくなった?
広い家に住み、欲しいものを買い、休日には旅行や外食を楽しむ。そんな生活が豊かさの象徴とされてきました。しかし、物価が上がり、将来への不安も増すなかで、生活者が思い描く理想の暮らしは少しずつ変わっています。高価なものを所有するより、家族とゆっくり食事をする時間が欲しい。収入を増やすために働き続けるより、趣味や休息の時間を確保したい。こうした考え方がある一方、生活費を確保するだけで精いっぱいという人もいます。豊かさの基準が変わったといっても、誰もが自由に理想の暮らし方を選べるわけではありません。
内閣府の2025年8月調査「国民生活に関する世論調査」では、心の豊かさやゆとりのある生活を重視する人が52.2%、物質的な豊かさを重視する人が46.6%でした。心の豊かさを求める人が過半数を占めるものの、経済的な充実を望む人もほぼ半数に達しています。しかも、若い世代では物質的な豊かさを重視する割合が比較的高く、年齢によって求める生活にも違いが見られます。この数字から読み取れるのは、モノへの関心が薄れたという単純な変化ではありません。経済的な安心を確保したうえで、自分の時間や健康も大切にしたい。そんな複数の願いが重なり合っていると考えられます。
物価高が変えたのは、買い物よりも生活の優先順位
豊かな生活を考える際、避けて通れないのが家計の問題です。総務省の消費者物価指数によると、2025年平均の生鮮食品を除く総合指数は前年比3.1%上昇しました。食料品や日用品の値上がりが続けば、以前と同じ暮らしを維持するだけでも負担が増します。外食の回数を減らしたり、旅行を近場に変更したりする家庭もあるでしょう。ただ、支出が減ったからといって、必ずしも節約志向が強まったとは限りません。本当は旅行に行きたいけれど、生活費を優先して諦めている場合もあるためです。自分の意思で消費を抑えることと、経済的な理由で我慢することは、同じ行動でも満足度が大きく異なります。
一方で、限られた予算を何に使うか、以前より慎重に考える人もいると思われます。毎日の食費を少し抑えて、年に一度の旅行を楽しむ。洋服を頻繁に買い替える代わりに、長く使える家具を選ぶ。駅から近い住宅に住むために家賃を多めに払い、通勤時間を短縮する。どれも支出を減らすことだけが目的ではなく、自分にとって満足度の高い生活を選ぶ工夫です。
ただし、こうした選択にも経済的な余裕が関係します。必要な生活費を確保できない家庭では、優先順位を自由に決めること自体が難しくなります。豊かさの価値観を語る際には、生活者が置かれた経済状況にも目を向ける必要があるでしょう。
健康や自由な時間を求めても、実現できるとは限らない
生活者が理想とする暮らしには、お金だけでは手に入らないものも含まれています。内閣府の2025年調査で、今後の生活において力を入れたいことを尋ねたところ、「健康」が71.4%で最も多く、「食生活」が42.0%、「資産・貯蓄」が39.9%、「所得・収入」が33.4%と続きました。健康への関心が高い背景には、長く働き続けたいという思いや、医療費・介護費への不安なども関係していると考えられます。体調を崩さず、好きなことを楽しめる生活は、収入や資産とは別の意味で豊かさを感じられる状態といえます。
自由な時間も同様です。同じ調査では、日常生活で時間のゆとりが「かなりある」「ある程度ある」と答えた人は合計63.8%でした。一方、「あまりない」「ほとんどない」という人も34.1%を占めています。仕事や家事、育児、介護などに追われる人にとって、何もしない時間を持つことさえ贅沢になりかねません。時短家電や食品宅配を利用して家事の負担を減らす方法もありますが、利用できるかどうかは家計の状況に左右されます。心の豊かさを求める人が増えたとしても、それを実現するための時間やお金が十分に確保されているとは限らない。この理想と現実の差が、現在の暮らしを考えるうえで見逃せない部分でしょう。
他人と比べる豊かさから、自分が納得できる生活へ
豊かな暮らしの基準が多様になるなかで、商品やサービスの選び方にも変化が表れています。高級なものを買うことに満足を感じる人もいれば、使い慣れたものを長く大切にする人もいます。旅行や外食にお金を使いたい人も、住まいの快適さを優先したい人もいるでしょう。どちらが豊かという話ではなく、自分の生活に合った選択ができるかどうかが満足度を左右します。内閣府の2025年調査では、日頃の生活で充実感を感じる場面として「ゆったりと休養している時」が57.9%、「趣味やスポーツに熱中している時」が49.3%、「家族団らんの時」が48.1%でした。高価な買い物や特別な体験だけでなく、普段の生活の中にも満足を感じる機会があることがわかります。
ただし、豊かさを自分で決めることと、経済的な問題を個人の工夫だけで解決することは別です。生活費が足りず、必要な支出まで削っている人に「身近な幸せを大切にしよう」と伝えても、現実の負担は軽くなりません。まずは生活を維持できる収入や住環境があってこそ、時間の使い方や楽しみ方を選ぶ余裕が生まれます。そのうえで、何となく続けている支出を見直したり、日々の負担を減らす方法を探したりすることが、暮らしの満足度を高めるきっかけになるでしょう。
豊かさの基準が「モノから心へ」と完全に移ったわけではありません。経済的な安心を求めながら、自分の時間や健康、身近な人との関係も大切にしたい。そんな生活者の現実的な願いが、これからの暮らし方を少しずつ変えていくと考えられます。
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