黒豆はなぜ「体によい」とされてきた?昔の知恵と現代科学をたどる

おせちの黒豆には、昔の健康観が詰まっている

お正月のおせち料理でおなじみの黒豆は、日本人にとって単なる食材以上の存在です。「まめに働く」「まめに暮らす」という言葉に重ね、健康や勤勉を願う縁起物として親しまれてきました。その一方で、昔の暮らしには、身近な食べ物を体調管理に役立てる食養生の考え方がありました。現代のように食品の成分を細かく調べることができなかった時代、人々は長年の経験を頼りに、季節や体調に合わせて食べるものを選んでいたと考えられます。黒豆も、そんな暮らしの知恵のなかで受け継がれてきた食材の一つです。

ただし、「昔から体によいとされてきた」という伝承と、医学的に効果が確かめられていることは分けて考える必要があります。民間療法は生活のなかで積み重ねられた経験や言い伝えであり、現在の医薬品のように臨床試験を経て治療効果が確認されたものではありません。
それでも、現代の栄養学から黒豆を見ると、興味深い特徴が見えてきます。黒豆は黒い種皮を持つ大豆で、文部科学省の日本食品標準成分表によると、ゆでた国産黒大豆100グラムには、たんぱく質14.7グラム、脂質8.6グラムが含まれています。昔の経験則をそのまま科学的な効能に置き換えることはできませんが、長く食べられてきた黒豆を、栄養という別の角度から見直すことはできそうです。

 

黒豆の「黒い皮」に隠れていたもの

黒豆と普通の大豆を並べると、一番分かりやすい違いは色です。実は、この黒い皮にも黒豆らしさがあります。黒色に関係しているのが、ブルーベリーや紫キャベツなどでも知られるアントシアニンです。ポリフェノールの一種で、黒豆では主に皮の部分に含まれています。昔の人は成分の名前など知るはずもありませんでしたが、現代では「なぜ黒いのか」だけでなく、その中に何が含まれているのかまで調べられるようになりました。

黒豆ならどれでも同じかというと、そうではありません。農研機構が公開している農産物機能性成分データを見ると、乾燥した「丹波黒」33試料のアントシアニン含有量は100グラム当たり平均77.88ミリグラム、「クロダマル」34試料では平均117.04ミリグラムでした。
同じ黒豆でも品種や栽培条件などによって含有量には差があります。クロダマルは農研機構が育成した黒大豆で、煮豆だけでなく、煎り豆や甘納豆、きな粉などへの加工も想定されています。
かつて「体によい」と経験的に語られていた黒豆を、現在では成分量や品種の違いまで数字で比較できるようになりました。食文化のなかで受け継がれてきた豆が、研究や品種改良の対象へと広がってきたことが分かります。

 

「黒豆を食べれば健康になる」と単純にはいえない

アントシアニンと聞くと、「それなら黒豆をたくさん食べたほうが健康によさそう」と思う人もいるでしょう。ただ、ここは少し注意が必要です。食品に含まれる成分を調べる研究には、試験管の中で成分の働きを見るものもあれば、動物や人を対象にしたものもあります。試験管の中でよい結果が出たとしても、食べたときに人の体でまったく同じ働きをするとは限りません。黒豆も、薬のように「これを食べれば特定の病気を防げる」と考える食品ではありません。

むしろ黒豆の魅力は、一つの成分だけに絞らないほうが分かりやすいでしょう。ゆでた国産黒大豆は100グラム当たり155キロカロリーで、たんぱく質は14.7グラム。大豆ならではの脂質や食物繊維なども含まれています。黒い皮にはアントシアニンがあり、中身には大豆としての栄養がある。そう考えると、「話題の成分を取るために食べる」というより、普段の食事に取り入れられる豆料理の一つとして楽しむほうが自然です。黒豆ごはんや煮物、きな粉など、甘いおせち料理以外にも食べ方を広げれば、昔ながらの食材が普段の献立にもなじんできます。

 

昔の知恵を、今の知識で楽しむ

黒豆の歩みを追っていくと、日本人が食べ物と健康をどのように結び付けてきたのかが見えてきます。昔は「代々食べられている」「体によいと伝えられている」といった経験が、食材を選ぶ理由の一つになっていました。現在は分析技術が進み、どの成分がどれくらい含まれているのか、品種によってどの程度違うのかまで調べられます。研究成果が品種改良や商品開発につながり、黒豆の用途も煮豆から菓子、きな粉、飲料などへ広がりました。おせち料理の食材という昔ながらの顔を持ちながら、現代の食品研究にもつながる存在になっています。

こうした変化は、「昔の人が信じていた健康効果が、科学によって証明された」という話ではありません。調べることで根拠が見えてきた部分がある一方、伝承の域を出ていないものもあります。その境目を知ったうえで食文化を楽しむことが、現代の私たちには求められているのかもしれません。
正月には家族で黒豆を囲み、普段は大豆食品の一つとして料理に取り入れる。健康に関する情報が気になったら、成分名だけではなく、どのような研究で確かめられたのかまで目を向けてみる。
昔から続く食の知恵と現代の科学は、どちらかを否定しなければ成り立たないものではありません。黒豆の歴史は、伝統を楽しみながら新しい知識も取り入れていく、日本の食文化らしい変化を映しているといえそうです。

カテゴリ
生活・暮らし

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