美容医療市場、5年で約1.6倍に拡大 高齢化社会で変わる「美容」の価値

6,000億円を超えた美容医療市場、成長ペースには変化も

美容整形と聞くと、二重整形や豊胸、フェイスリフトなど、見た目を大きく変える手術を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、現在の美容医療はそれだけではありません。シミやしわ、たるみ、肌質などの悩みに対し、レーザーや注入治療をはじめとしたメスを使わない施術が広がっています。美容外科だけでなく、形成外科や皮膚科、美容皮膚科などでも施術が行われるようになり、美容医療と生活者との距離は以前より縮まっています。

市場規模を見ると、その変化は鮮明です。矢野経済研究所によると、国内の美容医療市場は2019年の4,070億円から2024年には6,310億円へ拡大し、5年間で約1.55倍となりました。2025年は前年比2.1%増の6,440億円と推計されています。2024年の前年比6.2%増に比べると伸びは緩やかになりましたが、6,000億円を超える市場へ成長したことに変わりはありません。同研究所は、これまで市場を押し広げてきた低価格施術による裾野の拡大が一巡したと分析しています。価格を下げて新規利用者を呼び込むだけではなく、利用者それぞれの悩みに応える段階へ移り始めていると考えられます。

 

高齢化だけでは説明できない市場の成長

美容医療市場の拡大を考えるうえで気になるのが、日本の高齢化です。総務省によると、2025年9月時点の65歳以上人口は3,619万人で、総人口に占める割合は29.4%と過去最高を記録しました。2026年6月の人口推計でも65歳以上の割合は29.5%となっています。65歳以上の就業者も2024年には930万人に達しており、働き続ける高齢者は21年連続で増加しました。長寿化だけでなく、仕事や趣味、人との交流を続ける期間が長くなれば、服装や髪形と同じように、自分の外見を整えることへの関心が長く続く可能性があります。

ただし、「高齢者が増えたから美容医療市場が1.6倍になった」と結論づけることはできません。リクルートの「美容センサス2024年下期」によると、美容外科の利用経験率は女性全体で6.1%、20代では12.3%、30代では10.0%でした。一方、50代は2.5%、60代は2.3%にとどまっています。現時点では若い世代の利用が目立つ市場といえます。ただし、美容医療経験者に限って見ると、女性の50~60代では経験した施術が「2種類以上」の人が6割を超え、2023年から8ポイント以上増えました。中高年が市場の中心になったわけではありませんが、一度美容医療に触れた人が複数の施術を利用する動きは見え始めています。

 

美容整形から「年齢に合わせたケア」へ広がる需要

中高年の美容医療を考えるとき、若い世代と同じ基準で見る必要はないでしょう。20代であれば二重や鼻、輪郭といった美容整形への関心が入り口になるケースがありますが、年齢が上がるにつれてシミ、しわ、たるみなど、加齢による変化が悩みになりやすくなります。矢野経済研究所が2025年に20~50代の女性を対象に実施した調査でも、美容医療を経験した理由と興味を持つ理由の上位には「コンプレックスの解消」「老化予防」「自己肯定感の向上」が挙がりました。美容医療が、顔を大きく変えるためだけのものではなく、年齢による変化に対応する選択肢として受け止められ始めていることがうかがえます。

こうした需要と相性が良いのが、外科手術を伴わない施術です。矢野経済研究所も、非外科的施術は美容外科に限らず、形成外科や皮膚科、美容皮膚科など幅広い医療施設で提供されているとしています。大がかりな美容整形には抵抗があっても、「気になるシミを治療したい」「以前より目立ってきたしわを改善したい」という目的であれば、心理的なハードルは下がります。美容医療市場が次の成長を目指すうえでは、若い世代の新規利用だけでなく、中高年が無理なく継続できる施術やサービスが一つの市場になっていくと考えられます。

 

高齢社会で問われるのは「若返り」だけではない

市場が大きくなる一方、利用者の増加に伴う課題もあります。厚生労働省の資料によると、PIO-NETに登録された美容医療に関する相談は2019年の1,862件から2023年には5,507件へ増え、4年間で約3倍になりました。施術による健康被害だけでなく、高額な契約やSNS広告をきっかけとしたトラブルも報告されています。
美容医療の多くは自由診療のため、同じような施術名でも料金や治療内容、使用する機器などは医療機関によって異なります。若い世代から高齢者まで利用する人の幅が広がるほど、価格だけではなく、副作用や治療後の対応まで理解したうえで選べる環境が欠かせません。

日本では、すでに人口の約3割を65歳以上が占めています。ただ、美容医療市場の将来を考える際、高齢者を単純に「次の顧客」と見るだけでは実態を見誤ります。現在の利用率は若い世代のほうが高く、高齢化そのものが市場を6,000億円規模まで押し上げたとはいえません。一方で、50~60代の経験者が複数の施術を利用する動きや、老化予防を理由に美容医療へ関心を持つ人も確認されています。
働く期間や人と交流する期間が長くなれば、美容への支出も「若く見せたい」という目的だけではなく、「今の自分を心地よく保ちたい」という方向へ広がっていくでしょう。6,440億円まで成長した美容医療市場では、若者中心だった需要がどこまで幅広い年代へ広がるのかが、次の変化を読み解くポイントになりそうです。

カテゴリ
美容・ファッション

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