SNS発の健康・食トレンド、専門家の見解とのギャップはどこにあるか
「これで痩せた」が研究データより強く見える理由
TikTokやInstagram、YouTubeでは、「炭水化物をやめたら痩せた」「高たんぱく食で体が変わった」「腸活にはこの食品」といった食トレンドが次々に登場します。ビフォーアフターの写真や動画まで見せられると、専門家による説明より説得力があるように感じる人もいるでしょう。顔の見える人が自分の体験を語り、料理や食べ方まで短時間で紹介してくれるため、「自分にもできそう」と思いやすいからです。実際、2025年に公表されたSNS上の栄養情報に関するレビューでは、対象となった28文献のうち62%超が、急速な健康改善などをうたう「ミラクルダイエット」に関連する誤情報を扱っていました。
ただ、「その人に変化があった」という事実と、「その方法に効果がある」という話は分けて考える必要があります。仮に1カ月で5kg減った人がいても、紹介された食品だけが理由とは限りません。食事量が減った、運動を始めた、飲酒を控えたなど、画面に映っていない変化が影響している可能性があります。それでもSNSでは「○○をやめた→5kg痩せた」という形にすると伝わりやすくなります。一方、研究では対象者、摂取量、期間、比較対象などを細かく確認します。SNSと専門家の差は、発信者の肩書だけではなく、結果を判断するために必要としている条件の数にもあると考えられます。
SNSでは「分かりやすさ」、科学では「条件」が求められる
専門家の健康情報を読んでいると、「個人差があります」「条件によって異なります」といった表現によく出会います。結論を濁しているように感じるかもしれませんが、食事と健康の関係はそれほど単純ではありません。年齢や体格、運動量、持病、普段の食生活が違えば、同じ食事をしても影響は変わります。対してSNSでは「これを食べればいい」「これは避けたほうがいい」と言い切ったほうが内容を理解しやすく、投稿としても印象に残ります。数百人、数千人を対象にした研究の平均値より、「私はこれで変わった」という一人の体験談のほうが身近に感じられるのではないでしょうか。
炭水化物をめぐる話は、その違いが表れやすい例です。「糖質は太るから抜く」という説明なら数秒で伝えられますが、WHOは2026年1月に更新した健康的な食事の情報で、多くの人では未精製の炭水化物を総エネルギー摂取量の約45~75%とし、主に全粒穀物、野菜、果物、豆類などから摂る考え方を示しています。10歳を超える人では、野菜と果物を1日400g以上、食品由来の食物繊維を25g以上摂ることも目安です。つまり、専門的には「炭水化物を食べるか」だけではなく、「何から、どの程度摂るか」まで見なければ判断できません。この複雑さがSNSでは削られやすく、単純な健康法へ置き換わっていくといえます。
高たんぱくや腸活も「効いた人」だけを見ない
高たんぱく食や腸活といった食トレンドも、すべてが間違っているわけではありません。たんぱく質は体をつくるうえで欠かせませんし、野菜や豆類などから食物繊維を摂ることも健康的な食生活につながります。問題は、メリットのある食品がいつの間にか「多く摂るほどいい」「これだけ食べればいい」という話に変わってしまうことです。SNSで成功した人の投稿が繰り返し表示されれば、その方法の効果が実際以上に大きく見えることもあるでしょう。反対に、同じ方法を試して何も変わらなかった人は、わざわざ動画を投稿しないかもしれません。
ここで見落としたくないのが、SNS自体が悪いわけではないという点です。SNSには根拠の弱い情報がある一方、医師や管理栄養士、研究機関などが分かりやすい情報を発信する場にもなっています。2023年に発表されたオンライン栄養情報のシステマティックレビューでは、64研究を分析した結果、情報の質を調べた研究の48.8%、正確性を調べた研究の48.9%が「低い」と評価していました。ただし、質や正確性はSNSかウェブサイトかという媒体の違いより、情報の発信者によって差がみられています。「SNSだから信用できない」「専門家だから間違いない」と二択で考えるより、何を根拠に話しているかを見るほうが現実的ではないでしょうか。
食トレンドは「誰が言ったか」より条件を見る
SNSで気になる健康法を見つけたときは、発信者の肩書だけで判断せず、その主張が成立する条件を見ると情報を整理しやすくなります。「誰を対象にしているのか」「どのくらい摂取したのか」「何週間、何カ月続けたのか」「何と比較したのか」「一人の経験なのか、複数の研究で確認されているのか」。ここまで見ると、「○○を食べれば痩せる」という短い言葉だけでは判断できないことに気づきます。米国立補完統合衛生センターも、SNSの健康情報について、発信者の専門性だけでなく、その主張を裏付ける科学論文などの情報源を確認することを勧めています。
SNSは、新しい料理や食材、食生活の工夫を知るには便利な場所です。そこで見つけた食トレンドを楽しむことと、健康効果まで無条件に信じることは別でしょう。「1カ月で変わった」「これだけで健康になった」といった強い言葉ほど、その裏にある条件を少し確認してみる。SNSでは分かりやすさや共感が情報を広げ、科学では比較や再現性を重ねながら確かさを高めていきます。この違いが分かれば、専門家とSNSのどちらを信じるかという二択ではなく、「この情報はどこまで自分に当てはめられるのか」という視点で、食トレンドと付き合えるようになるのではないでしょうか。
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