「考えるマネジャー」が育たない理由、AI時代に問われる組織の体質

「考えてほしい」と言いながら、考える時間がない

「もう少し自分で考えて動いてほしい」。管理職に対して、経営者や人事担当者からよく聞かれる言葉です。ただ、本人の意欲や能力だけを問題にすると、見えなくなるものがあります。そもそも今の管理職に、自分の頭でじっくり考えられる時間がどれだけ残されているのでしょうか。リクルートマネジメントソリューションズが2026年に公表した調査では、自社の管理職に課題を感じている人は、人事担当者で71.0%、管理職自身では78.0%に達しました。人事担当者の53.2%が「管理職としてのパフォーマンスが不十分」、50.4%が「仕事の増加や期待の高まりによる負担の増大」を課題として挙げています。

現在のマネジャーは、部下の育成や評価だけを担当しているわけではありません。自分もプレイヤーとして数字を追いながら、会議、承認、採用、1on1、勤怠管理、他部署との調整まで抱えているケースがあります。予定表が会議で埋まり、その合間にメールを返し、承認を済ませる。これでは、目の前の仕事を回すだけで一日が終わってしまいます。本来、管理職には「何が問題なのか」を見つけ、原因を整理し、選択肢を比べて判断する役割があります。しかし会社が「もっと考えて」と求める一方で、仕事を詰め込み続ければ、そのための余白はなくなります。考えない管理職が増えたというより、考える時間を削ってきた組織側にも目を向ける必要がありそうです。

 

上司に聞くのが一番安全な会社になっていないか

考える時間をつくれば、それだけで状況が変わるわけでもありません。職場を見渡すと、「部下に任せているつもりなのに、最後は上司が決めている」という場面が意外に多くあります。提案を出しても細かく修正され、失敗すると強く責任を問われる。会議では議論を重ねても、最後は上位者の意見にまとまる。これが続けば、部下にとって合理的なのは自分で考え抜くことではなく、早い段階で上司に確認することです。「自律的に動いてほしい」という会社の期待とは反対に、上司の正解を当てる人ほど仕事を進めやすい職場になってしまいます。

この傾向は、管理職になってから急に始まるものでもありません。2026年の同調査では、課長・マネジャー候補の育成や選抜について、人事担当者の31.6%が「育成の進め方」、同じく31.6%が「管理職になる前に必要な経験を積ませること」に難しさを感じています。「管理職になりたいという社員が減っている」とする回答も34.0%ありました。一方、管理職候補を増やすための施策について、32.8%が「実施していることはない」と答えています。研修でマネジメントの知識を教えるだけでは、自分で決める力は身につきにくいものです。若手や中堅のうちから小さな仕事でも判断を任され、成功も失敗も経験する。その積み重ねがなければ、管理職になった途端に「今日から自分で判断してください」と言われても戸惑うのは無理もありません。

 

AIが便利になるほど、問われるのは「何を聞くか」

ここに生成AIが入ってきました。パーソル総合研究所が2026年7月に公表した3,300人を対象とする調査では、正規雇用者の生成AI業務利用率は54.3%でした。2025年10月の41.9%から半年余りで12.4ポイント上昇しています。週4日以上使うヘビーユーザーも15.6%から21.1%へ増えました。文章の下書き、情報整理、アイデア出しといった仕事では、AIを使うこと自体が特別ではなくなってきています。マネジメントでも利用が始まっており、2025年に全国1,032人を対象に行われた調査では、53.6%がメンバーのマネジメント業務で生成AIを使っていました。

ただ、ここには落とし穴があります。AIは質問すれば何らかの答えをすぐに返してくれます。売上が下がれば「改善策を考えて」、部下の成績が伸びなければ「育成方法を提案して」と聞くこともできます。しかし、売上低下の原因が価格なのか、商品なのか、集客なのか、それとも顧客そのものが変わったのかは、質問する側が調べなければ分かりません。パーソル総合研究所の2026年調査では、AIを頻繁に利用する人の中でも、情報を構造的に集める、優先順位を決める、実際の状況を確かめるといった「メタ・スキル」の違いによって、業務成果に最大3.6倍の差が確認されました。AIを使う回数より、何を調べ、どの答えを疑い、最後にどう判断するかが問われています。

 

「自分で考えろ」の前に会社が変えられること

考えるマネジャーを増やすために、研修を増やすという選択肢はあります。ただし、それだけで日々の働き方まで変わるとは限りません。研修では「部下に任せましょう」と教えながら、職場に戻れば細かな承認が必要。自律的な判断を求めながら、失敗すれば評価が下がる。長期的な組織づくりを期待しながら、評価されるのは今月や今期の数字ばかり。こうした仕組みが残ったままでは、管理職にとって安全なのは前例を守り、上司に確認し、失敗しないことになります。

変える余地があるのは、管理職の性格ではなく仕事の設計です。どこまで自分で決めてよいのかを明確にし、会議や報告を減らして考える時間を確保する。評価についても結果だけを見るのではなく、「なぜその判断をしたのか」「何を試したのか」「結果から何を変えたのか」まで扱えば、試行錯誤にも意味が生まれます。AIで資料作成が30分短くなったなら、その30分に別の作業を詰め込むのではなく、顧客を見る、部下と話す、仮説を確かめる時間に回す発想も必要でしょう。AIが多くの答えを瞬時に出せる時代に、マネジャーまで答えの速さで競う必要はありません。

何を問題として扱うのかを決め、AIの答えをうのみにせず、現場を見て最後の判断をする。その役割はむしろ重くなっています。「考えるマネジャー」が育たないと感じたとき、本人に考える力を求める前に、会社が考えなくても済む働き方をつくっていないか。そこを確かめることから始めてもよいのではないでしょうか。

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ビジネス・キャリア

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