ホテルは「予約を待つ」時代から変わる?サブスクが生む新たな需要

「泊まる予定」がなくてもホテルを使う時代へ

ホテルは、旅行や出張の予定が決まってから予約する場所でした。ところが今は、月額料金や会員制度を使い、必要なときにホテルへ泊まる「サブスク型」のサービスが選択肢に入り始めています。毎月一定額を支払うタイプもあれば、付与されたポイントを使って加盟ホテルから宿泊先を選ぶものもあります。利用者にとって大きいのは、宿泊が「予定の後」に来るとは限らなくなったことです。今月使える枠が残っているなら、近場へ一泊しよう。仕事を兼ねて地方に数日滞在しよう。そんな動きが生まれれば、ホテルに泊まること自体が外出の理由になります。

観光庁によると、2025年の日本人国内旅行消費額は26兆7,845億円で、前年を6.5%上回りました。そのうち宿泊旅行による消費額は21兆7,211億円です。国内旅行で動く金額は大きい一方、宿泊施設が一年中満室というわけではありません。2026年5月の全国客室稼働率は61.0%、6月は56.2%でした。数字だけを見て空いている客室すべてが販売できると考えるのは乱暴ですが、平日や閑散期に部屋が余りやすい施設が多いのは確かです。サブスクは、その余白に新しい客を入れる方法として見られています。

 

ホテルを悩ませるのは空室より「売れる日の偏り」

ホテル経営で厄介なのは、単に部屋が空くことではありません。金曜や土曜、大型連休、観光シーズンには予約が集中する一方、平日やオフシーズンになると客室が余ります。しかもホテルの部屋は、売れ残ったから来週に回すということができません。今日空いたままの一室は、その日のうちに販売できなければ売上になる機会を失います。この「持ち越せない在庫」が、ホテル経営を難しくしています。

だからといって、値段を下げれば解決するわけでもありません。料金を安くすれば予約は入りやすくなりますが、人件費や清掃費、光熱費はかかります。満室でも利益が残らなければ意味がありません。サブスクに期待されるのは、単なる値引きではなく、需要が少ない日に宿泊客を動かすことです。平日は少ないポイントで泊まれる、繁忙日は必要ポイントを増やすといった仕組みなら、混雑する日と空いている日の差を小さくできます。2025年の日本人延べ宿泊者数は4億8,118万人泊で、前年比2.7%減でした。国内客の宿泊機会をどう増やすかは、ホテル側にとってかなり現実的な経営課題になっています。

 

サブスクで部屋が埋まっても、儲かるとは限らない

ここで見落としやすいのが、客室稼働率と利益は同じではないという点です。通常1万5,000円で売れる客室を、サブスク会員が実質8,000円で利用したとします。その利用者が、もともと通常料金でも予約する予定だった客なら、ホテルは新しい需要を獲得したのではなく、既存客を安いプランへ移しただけです。数字の上では稼働率が上がっても、売上は下がります。

繁忙期には、もっと分かりやすく問題が出ます。週末や連休に会員予約が集中すると、本来高い料金で売れた部屋をサブスク枠で使われる可能性があります。会員数が増えた、宿泊回数が増えたという数字だけでは、成功したかどうかは判断できません。ADRと呼ばれる平均客室単価や、販売可能な客室1室当たりの売上を示すRevPAR、会員の継続率、平日の利用割合、館内での飲食やスパ利用まで見た方が実態に近づきます。ホテルごとに繁忙日を除外したり、平日利用を優遇したりしながら、通常予約を食わない設計にできるかが分かれ目になるでしょう。

 

ホテルは「予約を待つ」だけでなくなる

サブスクの価値は、空室処分だけではありません。これまで存在しなかった宿泊をつくれるところにあります。一般的な旅行では、行きたい場所や目的を決め、その後でホテルを探します。サブスクでは順番が逆になることがあります。宿泊できる枠が残っているから、せっかくなら出かけよう。仕事を少し離れて、別の街で過ごしてみよう。そんな行動が生まれれば、旅行の回数自体が増えるかもしれません。

ホテル側にとっても、客との関係は変わります。予約サイト経由で一度泊まって終わる客より、会員として継続的に利用する客の方が、好みや利用パターンを把握しやすくなります。平日に動く人なのか、温泉地を好むのか、都市型ホテルを選ぶのか。こうした情報が積み重なれば、空室が多い時期に合わせて案内を出したり、館内サービスの利用につなげたりできます。人口減少や人手不足、季節による需要差をサブスクだけで片づけることはできません。それでも、ホテルが客を待つだけでなく、「泊まりたくなる理由」を自分たちでつくれるようになれば、経営の組み立て方はかなり変わってくるのではないでしょうか。

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