2040年を見据えた働き方改革、企業と個人に求められる新しい制度設計

一つの会社だけで働く時代は変わるのか

平日は会社員として働き、週末は自分の得意分野を生かして別の仕事をする。そんな働き方が、以前ほど珍しくなくなってきました。収入を増やしたいという理由だけでなく、新しい仕事に挑戦したい、将来の独立に備えたいといった目的で副業を選ぶ人もいます。企業側でも、専門的な知識を持つ人材を必要な期間だけ迎え入れる動きが広がっています。背景にあるのは、働く人の意識の変化と深刻化する人手不足です。これまでの日本企業は、社員を採用して社内で育て、長く働いてもらう仕組みを基本としてきました。しかし、人口が減り続ける社会では、すべての仕事を自社の社員だけで担うことが難しくなっていくと考えられます。

国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した推計によると、日本の15〜64歳人口は2020年の約7,509万人から2040年には約6,213万人まで減少する見通しです。20年間で約1,300万人減る計算となり、企業の人材確保は一段と厳しくなる可能性が高まっています。総務省の2022年就業構造基本調査では、副業を持つ人は約305万人に上り、2017年から約60万人増えました。ただし、人口減少によって必ず副業が増えるとは限りません。人手不足への対応には賃上げや省力化、働く環境の改善も必要です。そのうえで、一人の人材が複数の企業に関わる働き方は、専門人材を確保しにくい中小企業などにとって現実的な選択肢となるでしょう。

 

副業・兼業が増えるほど見えてくる社会保障の問題

働く場所や仕事の数を自由に選べるようになっても、社会保障の仕組みが同じ速さで変わっているわけではありません。日本の健康保険や厚生年金は、基本的に企業に雇用されて働く人を中心に整えられてきました。複数の会社で社会保険の加入条件を満たす場合には、報酬を合算して保険料を計算する仕組みが設けられています。一方、会社員が副業としてフリーランスの仕事を請け負った場合、その報酬は原則として本業の厚生年金保険料の計算対象にはなりません。同じように複数の仕事をしていても、雇用契約か業務委託かによって扱いが変わります。働き方が複雑になるほど、自分がどの制度の対象になるのかを理解しにくくなる点は見逃せません。

健康管理にも課題が残ります。平日は会社で8時間働き、帰宅後に副業を続ける生活では、収入が増えても十分な休息を取れなくなる恐れがあります。複数の企業に雇用される場合、労働時間は原則として通算されますが、企業が他社での勤務実態まで把握することは簡単ではありません。業務委託による副業には、原則として雇用労働者と同じ労働時間規制が適用されないという違いもあります。2024年11月にはフリーランス・事業者間取引適正化等法が施行され、取引条件の明示や報酬支払いなどのルールが整備されました。ただし、この法律だけで長時間労働や病気による収入減少への備えが十分になるわけではなく、働く人の健康と生活をどう守るかは引き続き課題となっています。

 

社会保障は2040年の働き方に追いつけるのか

制度の見直しは少しずつ進んでいます。2025年に成立した年金制度改正法により、短時間労働者が社会保険に加入する条件が緩和されました。2026年10月には、いわゆる「年収106万円の壁」に関係する月額8万8,000円以上という賃金要件が撤廃されています。今後は企業規模による要件も段階的に縮小され、2035年10月には撤廃される予定です。厚生労働省が2025年の改正時に示した試算では、企業規模要件の撤廃によって約70万人、最低賃金の引き上げと賃金要件の撤廃によって約110万人が新たに社会保険の対象になると推計されています。短時間勤務でも厚生年金や健康保険に加入しやすくなることは、働き方を選ぶうえで大きな変化といえるでしょう。

ただし、今回の改正は主に短時間労働者の加入対象を広げるもので、複数の仕事を持つ人の問題をすべて解決するものではありません。週15時間ずつ別々の企業で働く人は、合計30時間働いていても、それぞれの勤務先で週20時間の加入要件を満たさない場合があります。雇用とフリーランスの仕事を組み合わせる人にも、保障の扱いが異なるという課題が残ります。将来的には、勤務先ごとではなく、個人の働き方全体を踏まえて保障を考える仕組みも議論の対象になると思われます。ただし、対象を広げれば企業や本人の保険料負担も変わるため、単純に制度を統一すればよいわけではありません。2040年に向けては、保障を受けられる人を増やすことと、制度を無理なく維持することの両立が求められます。

 

2040年のキャリアは、仕事を増やすことだけではない

副業・兼業が広がれば、企業の人材活用も変わっていくと考えられます。地方の中小企業が都市部のIT人材にシステム改善を依頼したり、会社員が週末に別の企業のマーケティングを支援したりする働き方は、その一例です。企業にとっては正社員を新たに採用せずに専門知識を取り入れられ、働く側も本業では得られない経験を積めます。ただし、企業が副業人材に頼りすぎれば、社内に知識や技術が蓄積されにくくなる恐れもあります。副業人材を活用する場合でも、社内の担当者と一緒に仕事を進め、得られた知識を共有する仕組みが必要です。働く人についても、副業によって収入が増える一方、仕事量が過剰になれば本業への影響や健康上の問題が生じかねません。

これからのキャリアを考える際には、会社に依存しないことだけを目標にする必要はないでしょう。一つの企業で経験を積み重ねる働き方にも価値があり、副業を持つことが必ずしも収入や将来の安定につながるとは限りません。副業を検討するなら、まず就業規則を確認し、契約形態による社会保険や税金の違い、無理なく働ける時間を把握することが現実的な出発点となります。企業側には、副業を認めるだけでなく、労働時間の管理や健康への配慮、社外で得た経験を評価する制度づくりが求められます。2040年に向けて目指したいのは、誰もが複数の仕事を持つ社会ではなく、年齢や家庭の事情に合わせて働き方を変えられる社会です。仕事を変えるたびに生活の安定が揺らぐのでは、選択肢が増えても安心して挑戦できません。働き方の自由と社会保障による安心を両立できるかどうかが、これからのキャリアの未来を左右することになりそうです。

カテゴリ
ビジネス・キャリア

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