AI戦略を外部委託する企業が増える理由、内製化との違いとは
AI戦略を外部に任せる企業が増えている背景
生成AIの普及によって、企業でも文章作成や問い合わせ対応、営業資料の作成、データ分析などにAIを使う場面が広がってきました。ただし、AIツールを導入することと、AI戦略を持つことは同じではありません。AI戦略では、どの業務を変えるのか、どのデータを利用するのか、どこまで投資するのか、成果をどの指標で判断するのかまで決める必要があります。技術だけでなく経営や業務、セキュリティ、人材配置などにも関係するため、社内だけで方向性を決めるのが難しい企業も少なくないでしょう。その不足を補う方法として、コンサルティング会社や開発会社などへの外部委託が選ばれていると考えられます。
背景にあるのが、AIやDXを扱える人材の不足です。IPAの「DX動向2025」では、日本企業の85.1%がDXを推進する人材について不足していると回答しました。AIを理解するビジネス・マネジメント層が不足している企業は49.3%、AIを活用した製品やサービスを企画・開発する専門職では61.0%に達しています。AI戦略にはエンジニアだけでなく、「どの仕事にAIを使えば事業の成果につながるか」を判断できる人材も欠かせません。こうした人材を短期間で採用し、社内で育てることが難しい企業にとって、外部委託は専門知識を補いながらAI活用を始める現実的な方法の一つといえるでしょう。
外部委託と内製化では企業に残るものが違う
外部委託が向いているのは、AIに詳しい社員が少なく、何から着手すればよいか整理できていない企業です。特に中小企業では、AIエンジニアやデータ分析の専門家を複数採用し、自社だけで開発体制を整えることは簡単ではないでしょう。AIサービスの調査やシステム開発、セキュリティ対策などを専門会社へ任せれば、社内で一から調査する時間を抑え、プロジェクトを早く始める効果が期待されます。ただし、「AIで何かできないか」と目的まで外部へ任せてしまうと、自社が本当に解決したい課題より、導入しやすい技術が優先される可能性もあります。その結果、費用をかけて完成させたシステムが現場でほとんど使われない事態も考えられます。
内製化には、自社の仕事や顧客を理解した社員が改善を続けられる強みがあります。営業担当者がどの作業に時間を取られているのか、顧客からどのような問い合わせが多いのかといった情報は、日々業務に携わる社員ほど詳しく把握しているでしょう。AI活用を繰り返すなかで、経験や判断基準が組織内に蓄積される点も内製化ならではの利点といえます。その反面、採用や育成には時間と費用がかかり、専門人材を採用しただけでAI戦略が完成するわけではありません。外部委託は専門知識や客観的な視点を取り込みやすく、内製化は業務理解とノウハウの蓄積に強いため、企業規模や人材、予算によって適した方法は変わると思われます。
AIを導入しても利益につながらない企業がある
AI戦略で起こりやすい失敗の一つが、PoCと呼ばれる試験導入を繰り返しながら、本番運用へ進めない状態です。チャットボットを試す、議事録を自動作成する、生成AIで資料を作るといった施策が増えても、それだけで会社全体の利益が伸びるとは限りません。IPAが2026年に国内企業1,799社を対象として実施した調査でも、AI導入は広がっている一方、活用は業務効率化や迅速化が中心となっており、売上拡大や新規事業といった企業価値の創出への展開は限定的とされています。AIを使うこと自体が目的になると、試験プロジェクトだけが増え、経営への効果を判断しにくくなる可能性があるでしょう。
そこで求められるのが、AI導入前後を数字で比較できる指標です。問い合わせ対応なら1件当たりの対応時間や解決率、営業なら資料作成時間や商談化率、バックオフィスなら作業時間やエラー率などが候補になります。McKinseyが2025年に公表した調査では、回答企業の78%が少なくとも一つの業務でAIを利用していましたが、生成AIの導入に伴って一部の業務フローを根本的に再設計した企業は21%でした。同調査では、生成AIによる利益への影響と強く関連する要素として、業務フローの再設計も挙げられています。現在の仕事にAIを付け足すだけではなく、作業の流れまで見直せる企業ほど、AIを具体的な成果へ結び付けやすいといえるでしょう。
技術を借りても経営判断まで外部に渡さない
AI戦略では、外部委託か完全内製かを二者択一で決める必要はないでしょう。AIモデルやサービスの調査、システム開発、高度なセキュリティ対策などは外部の専門家に任せ、解決する経営課題や業務の優先順位、投資を続けるかどうかの判断は社内で行う方法があります。外部企業と自社の担当者が一緒にプロジェクトを進め、運用方法や評価基準を社内へ移していけば、専門知識を利用しながら自社のAI活用能力を高める効果も期待されます。すべてを自社で抱え込むより、必要な専門性を外部から取り込みながら、徐々に社内で対応できる領域を増やす方法が適している企業も多いのではないでしょうか。
避けたいのは、外部委託を続けた結果、契約している会社しか仕組みを理解していない状態になることです。担当会社を変更すると運用できない、成果を評価する方法が分からない、改善のたびに追加費用が発生するといった状況になれば、AIを使うほど外部への依存度が高まると思われます。自社でAIモデルを開発できなくても、何を解決するのかを決め、成果を数字で確認し、投資を続けるか止めるかを判断できれば、AI戦略の主導権を維持しやすくなります。技術や専門知識は必要に応じて外から借りながら、課題設定や成果判断は社内に残す。こうした役割分担ができれば、外部委託を一時的なAI導入で終わらせず、自社に知識を蓄積しながら継続的な改善につなげられると考えられます。
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