「運の総量」は本当にある?努力と偶然の関係から考える人生のチャンス

「運を使い果たす」は本当なのか

「ここで運を使ったから、しばらく悪いことが起きそう」「大きな幸運が続くと、その反動が怖い」。こうした感覚を持つ人は少なくありません。そこには、一生のうちに使える運には限りがあり、幸運を受け取るたびに残りが減っていくという「運の総量」の考え方があります。ただ、現在の科学では、人に決まった量の運が割り当てられていることを示す根拠は確認されていません。大きな幸運があったからといって、その後の幸運が減ると証明されたわけでもありません。

コインを投げて5回続けて表が出ても、次に表が出る確率は基本的に2分の1です。過去に表が続いたから、次は裏が出やすくなるわけではありません。一方で、人生では出来事同士がつながっています。良い会社へ転職できれば収入や人間関係が変わり、そこから新しい仕事につながることもあります。そのため、私たちは連続する出来事を見て「運が続いている」と感じやすいのでしょう。「運の総量」は実際に減っていく残高というより、予測しにくい人生を理解するための考え方に近いといえます。

 

同じ努力でも結果に差が出る理由

では、運を無視して努力だけで成功を説明できるかというと、そうとも言い切れません。2018年に学術誌『Advances in Complex Systems』へ掲載されたPluchinoらの研究では、才能と偶然が成功にどう関わるかをシミュレーションで検証しました。その結果、才能が高い人ほど必ず大きな成功を収めるわけではなく、平均的な能力を持ちながら幸運な出来事に多く遭遇した人が大きな成果を得るケースも示されています。

もちろん、これは現実社会をそのまま再現した調査ではありません。一定の条件を設定したモデルによる研究なので、「成功は運で決まる」と結論づけるのは行きすぎです。それでも、同じくらい努力している人の間でも結果に差が出る理由を考える材料にはなります。景気が良い時期に起業したか、不況期だったか、偶然キーパーソンと知り合えたか、募集が出たタイミングで応募できたか。こうした要素は本人の努力だけでは決められません。努力は成功を保証するものではなく、偶然が訪れたときにつかめる可能性を高めるものと考えられます。

 

努力で増やせるのは「運の量」ではなく接点

運について考えるとき、分けて見たほうが分かりやすいことがあります。偶然が起きること、その偶然に気づくこと、そして成果につなげることは別の話です。心理学者リチャード・ワイズマンは、約10年間にわたり、自分を「運がいい」と考える人と「運が悪い」と考える人の行動や考え方を研究しました。その中では、運がいいと感じる人ほど偶然の機会に気づきやすく、新しい出会いや経験を受け入れやすい傾向が報告されています。

ここに努力との接点があります。転職で1社だけ受ける人と10社受ける人では、採用につながる機会の数が違います。営業でも月10件しか接触しない人と100件接触する人では、思わぬ商談に出会う可能性は変わるでしょう。SNSで月1回しか発信しない人と週3回発信する人でも、誰かの目に留まる回数は異なります。数字を増やせば必ず成功するわけではありませんが、偶然が入り込む余地は広がります。努力によって運そのものを増やすのではなく、運と出会う場所を増やしていると考えると理解しやすいのではないでしょうか。

 

差がつくのは「運を拾える状態」かどうか

同じ幸運が訪れても、その後の結果は人によって変わります。知人から新しい仕事を紹介されたとしても、必要なスキルがなければ断らざるを得ないかもしれません。反対に、以前から勉強を続け、経験を積んでいた人なら、その偶然を仕事につなげられる可能性があります。ここで差を生むのは、運の大きさではなく、訪れた機会を受け取れる状態にあるかどうかでしょう。努力は偶然そのものを生み出す魔法ではありませんが、偶然を成果へ変える準備にはなります。

そう考えると、「運を使い切った」と心配する必要はあまりなさそうです。それよりも、自分がどれだけ偶然と接触できる場所にいるか、機会が来たときにつかめる準備があるかを見たほうが現実的です。人に会う、応募する、学ぶ、発信する、場所を変える、失敗した方法を修正してもう一度試す。こうした行動は、未来を確実に変えるものではありません。それでも、偶然が入ってくる入口を増やし、その偶然を生かせる可能性を高めることはできます。「運の総量」を気にするより、「運を拾える状態をどれだけ作れているか」を考えるほうが、人生の選択肢は広がっていくのではないでしょうか。

カテゴリ
人間関係・人生相談

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