「誰でも参加」だけが正解ではない、招待制サービスが支持される理由

誰でも参加できる場所が、居心地いいとは限らない

ウェブサービスは長く、利用者が増えるほど価値も高まると考えられてきました。SNSなら人が集まるほど投稿が増え、それを見るために別の人がやって来ます。FacebookやInstagram、Xなどが大きく成長した背景にも、こうした人が人を呼ぶ仕組みがあります。

ただ、利用者が増えるほど発信しづらくなる面もあります。友人に向けて書いたつもりの投稿が職場の人や取引先、まったく知らない人の目に入ることも珍しくありません。何かを書くたびに「誰に見られるだろう」と考え、大勢の前で発言しているような感覚になる人もいるでしょう。気軽に交流するはずだったSNSで、人目を気にする時間が増えてしまう。そんな状況とは対照的に、招待制や承認制、会員限定など、参加できる人の範囲をあらかじめ決めたサービスが改めて目を向けられています。

招待された人だけが入れるサービスと、有料会員だけが利用できるサービスでは仕組みが違います。それでも、誰でも自由に出入りできる場所ではなく、ある程度メンバーが見える環境をつくるという点は共通しています。2024年にはマッチングサービスを手がけるBumbleが、グループ単位の交流を中心としたコミュニティアプリ「Geneva」を買収しました。とにかく多くの人を集める発想から、参加者同士が関係を築きやすい場所をつくる発想へ。ウェブサービスに求められるものが少しずつ変わっているといえます。

 

Clubhouseが見せた「入りにくさ」の吸引力

招待制サービスの代表的な事例として知られるのが、2020年に登場した音声SNSのClubhouseです。日本でも2021年初頭に急速に名前が広まりました。当時は既存ユーザーから招待されなければ登録できず、アプリを入れればすぐ始められる一般的なSNSとは異なる仕組みを採用していました。

それでも利用者は急増します。調査会社App Annieの当時の推計では、世界のダウンロード数は2021年2月1日時点の350万超から、同月16日には810万に達しました。約2週間で2倍以上に増えた計算です。誰でもすぐに参加できない不便さが、「中では何が起きているのだろう」「自分も参加してみたい」という興味につながった面はあったでしょう。

ただし、Clubhouseは2021年7月に招待制を終了しています。招待制にすればサービスが長く支持される、という単純な話ではありません。現在の限定型サービスに目を向けると、Clubhouseが注目された頃とは少し事情が違います。希少性を演出するためだけではなく、参加者の範囲をある程度把握できる場所を求める人がいるからです。不特定多数に見られる場所より、共通の趣味や目的を持つ人と話せる場所のほうが気楽だと感じる人もいるでしょう。「入れる人が少ないから価値がある」から、「誰と話しているか分かるから使いやすい」へ、限定する意味も変化していると考えられます。

 

100万人に見られるより、1000人と長くつながる

参加者を限定したコミュニティが増える背景には、運営側の事情もあります。これまでのSNSでは月間利用者数やPV、滞在時間など、サービスの規模を示す数字がよく使われてきました。しかし、登録者が100万人いても利用頻度が低ければ、安定したサービスになるとは限りません。規模は小さくても、利用者が毎週訪れ、長期間使い続けてくれるほうが収益につながるケースもあります。

ニュースレタープラットフォームのSubstackは、その変化を理解しやすい事例でしょう。Substackは2025年3月、有料購読契約が500万件に達したと発表しました。この数字は500万人の利用者を意味するものではなく、一人が複数のニュースレターを契約しているケースも含まれます。それでも、不特定多数に広告を見せる方法とは別に、「読みたい人が料金を払い、気に入った発信者を継続的に読む」という形が大きく成長していることが分かります。

こうした仕組みでは、発信者も必ずしも何百万人へ届ける必要がありません。100万人に一度だけ見てもらうより、1000人が毎月訪れてくれるほうが価値を持つ場合もあります。利用者を増やし続けることより、今いる人との関係を長く保つことが収益につながるのであれば、参加者をある程度絞ったコミュニティとも相性が良いでしょう。ウェブサービスを見る基準が「どれだけ大きいか」だけではなく、「どれだけ長く使われているか」に広がってきたといえます。

 

求められているのは「閉鎖」ではなく使い分け

もちろん、参加者を限定すればすべてがうまくいくわけではありません。同じ考えを持つ人ばかりが集まれば、異なる意見に触れる機会は少なくなります。招待された人だけが参加できる仕組みが強調されすぎれば、外から見たときに排他的な印象を与えることもあるでしょう。入口を狭める以上、短期間で多くの利用者を獲得することも難しくなります。Clubhouseが最終的に招待制を解除したことからも、参加条件を設けるだけでは長期的な成長につながらないことが分かります。

それでも限定型サービスが選ばれるのは、オープンなSNSが必要なくなったからではないでしょう。むしろ、一人の利用者が目的に合わせて複数の場所を使い分けるようになった影響が大きいと思われます。広く情報を集めたいときはSNSを開き、仕事ではSlackやTeamsを使い、趣味や学びでは会員限定のコミュニティに参加する。すべての人に同じ内容を見せる必要はありません。

招待制サービスの復権も、インターネットが以前より閉鎖的になったと見るより、「誰とつながるかを自分で選びたい」という需要の表れとして見るほうが自然でしょう。誰に見せるのか、誰と話すのか、どこまで公開するのか。その範囲を自分で選べることが、ウェブ上の居心地を左右するようになっています。これからのサービスでは、利用者を何人集めたかだけでなく、その人たちが「ここなら使い続けたい」と感じられる関係や空間をつくれるかが、これまで以上に問われていくのではないでしょうか。

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インターネット・Webサービス

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