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株価6万円時代の資産形成術——熱狂に乗りながらも「冷静な目」を手放さないために

史上初の6万円台——その熱狂の正体

2026年4月23日、東京株式市場で日経平均株価が取引時間中に初めて6万円の大台を超えました。2024年に4万円、2025年10月に5万円を突破してからわずか半年。この間、約1年で株価が2倍近くに膨らんだ計算になります。SNSでは「いよいよ日本株の時代が来た」「このまま7万円も夢ではない」といった声があふれ、新NISAを通じて初めて株式投資を始めた個人投資家の間では、上昇相場への期待感がかつてないほど高まっているように見受けられます。

今回の株価上昇には、一定の実力が伴っていたことも確かです。AI・半導体サプライチェーン関連企業を中心に企業業績が拡大し、東証のPBR改革が進んだことで外国人投資家からの評価も高まりました。インフレ環境の定着が「値上げしやすい土壌」をつくり出し、内需型企業の利益率も改善してきました。2012年初を起点にすれば日経平均は6.64倍に上昇しましたが、企業の予想1株利益(EPS)も同期間で5.18倍に拡大しており、「業績に裏打ちされた上昇」という評価は一面では妥当と考えられます。
ただし冷静に数字を読むと、足元の相場には見過ごせない変化が生じています。2026年に入ってから、日経平均の予想PER(株価収益率)が20倍を超える局面が目立つようになり、それまでおおむね17倍台以下で推移してきた水準を明らかに上回っています。これは企業利益の拡大だけでなく、市場の「期待という名の夢」が上乗せされ始めているサインではないでしょうか。熱狂の中で歴史が繰り返してきたパターンを、今一度確認しておく価値があります。

 

数字が示す「過熱感」のリアル

バブル崩壊前夜の1989年末、日経平均のPERは61.0倍、PBR(株価純資産倍率)は5.6倍に達していました。2026年4月22日時点ではPERが20.6倍、PBRが1.8倍ですから、数値だけを見れば当時とは大きな隔たりがあり、「今回はバブルではない」という見方が広がるのも理解できます。しかしバブルかどうかを判断する物差しは、PERやPBRだけではありません。

注目したいのが、移動平均線乖離率です。日経平均が最高値を更新した局面では、25日移動平均線に対する乖離率がプラス9.48%に達しました。一般的に乖離率がプラス5%を超えると過熱感が意識され始め、プラス10%付近でピークを形成する傾向があることを踏まえると、すでに警戒ゾーンに差し掛かっていると見てよい水準といえます。

また見落とせないのが、上昇の「中身」です。日経平均株価、TOPIX、東証スタンダードTOP20、グロース250指数の4指数を比較すると、2026年4月の急反発局面で日経平均だけが突出して上昇し、ほかの3指数は明らかに出遅れています。これは物色の広がりを欠いた「一極集中型」の相場を示しており、AI・半導体の大型株に資金が偏っているにすぎない構造が浮かびあがります。野村証券もCTA(商品投資顧問)やマクロファンドによる先物の買い戻しが相場を必要以上に押し上げた可能性を指摘しており、実需を伴わない需給要因が6万円突破を演出した側面も否定しきれないと思われます。相場の高さそのものより、その高さを支えている「柱の強度」を疑う視点こそが、いまは大切ではないでしょうか。

 

「FOMO」が個人投資家を引き込む構造

株価が節目を超えるたびに、ニュースは「史上最高値更新」と繰り返し報じます。その報道が投資経験の浅い個人投資家を市場へと引き込む呼び水となり、「乗り遅れることへの恐怖心(FOMO:Fear of Missing Out)」から買い注文が膨らみ、それがさらに株価を押し上げるという自己強化のサイクルが生まれやすい局面です。歴史的に見て、個人投資家の参入が急増した時期が相場のピーク付近と重なることは少なくありません。1989年末のバブル絶頂期も「土地と株は必ず上がる」という楽観論が市場全体を覆い、2000年代のITバブルも、2007年のサブプライム相場も同様の構造をたどりました。

もちろん、現在の日本株には企業業績の改善という実力の裏付けがあり、あの時代と単純に同列に置くことはできません。しかし「今度こそ違う」という言葉が最も多く聞かれるのは、往々にして相場の天井付近であるというのも歴史の教訓といえます。資産形成という観点で考えれば、指数の水準そのものよりも「なぜ自分はいま買おうとしているのか」という動機の質を問い直すことが重要です。周囲の盛り上がりに引っ張られた衝動的な購入と、長期的な資産設計に基づいた積立投資では、同じ「株を買う」行動でもリスクの性質がまったく異なります。株価が上昇しているいまこそ、自分のポートフォリオを冷静に点検する好機と捉えるべきでしょう。

 

「酔わずに踊る」ための資産形成の原則

では、6万円時代の相場とどう向き合えばよいのでしょうか。熱狂を横目に「全力撤退」を選ぶ必要はありません。野村証券のメインシナリオでは日経平均の2026年末目標を60,000円、2027年末を63,000円と見込んでおり、上昇余地そのものを否定しているわけではないからです。重要なのは、熱狂に流されずリスクを意識したうえで市場に参加し続けるという姿勢といえます。

まず取り組みたいのが、保有資産のリバランスです。株式比率が想定以上に高まっている場合、債券や現金の比率を見直すことで下落局面でも慌てずに済む体制が整えられます。つみたて投資を続けている方であれば、時間を分散させる積立の仕組みをそのまま活かすことで、高値圏での集中購入というリスクを自然に回避できるため、心理的な安定にもつながると考えられます。
また、外国人投資家の動向にも目を配っておくことが望まれます。彼らの純購入額は月ごとの振れ幅が大きく、地政学リスクや為替の急変時には即座に売りへと転じる傾向があります。2024年には日銀の利上げ観測が一時的な円高をもたらし、外国人が日本株を大きく売り越す局面がありましたが、日銀の金融政策の方向性次第では同様のシナリオが再来する可能性も十分に想定されます。

プライベートクレジット問題やイラン情勢など、表面の数字には現れにくいリスク要因の存在も忘れてはなりません。相場の最大の敵は「慢心」です。日経平均がどこまで上がるかを予測することよりも、「大きく下がっても耐えられる設計になっているか」を問うことが、長期の資産形成においては本質的な問いと思われます。

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