• トップ
  • マネー
  • お金を稼ぐことと、価値を生み出すことは、なぜすれ違うのか

お金を稼ぐことと、価値を生み出すことは、なぜすれ違うのか

一生懸命働いても報われない理由

汗水流して働けば、それに見合った対価が返ってくる。多くの人がそう信じて日々の仕事に向き合っていますが、実際の社会を見渡すと、その前提はあっさり裏切られてしまいます。介護や保育のように、人の暮らしを根本から支える仕事の給料は決して高くありません。厚生労働省の賃金構造基本統計調査を見ると、介護職員の月収はおよそ29万円前後で推移しており、金融業界の平均年収がしばしば700万円を超える水準にあるのとは対照的です。

この差は、働く人の努力や能力の差から生まれているわけではなさそうです。市場という仕組みそのものが、社会にとってどれだけ役立つかではなく、需要と供給のバランスだけで価格を決めてしまうからでしょう。経済学者アダム・スミスは『国富論』の中で、生きるために欠かせない水がほとんど値段を持たず、実用性の乏しいダイヤモンドが高値で取引される現象を取り上げました。使う人にとっての価値と、市場で交換される価格は、まったく別の論理で動いているというわけです。この視点を持つだけで、給料の高い仕事が偉くて、給料の低い仕事が軽んじられるという単純な図式が、いかに雑な見方かがわかってきます。

 

お金という物差しの限界

お金で測れるものと、測れないものがある。当たり前のようでいて、この感覚を日々の生活の中でしっかり意識できている人は、実はそう多くないかもしれません。経済学者アマルティア・センは、人がどれだけ豊かに生きられるかを測る基準として、所得の額だけでなく「実際にどれだけの選択肢を持ち、それを行使できているか」という視点を重視しました。お金はあくまで手段のひとつであって、それ自体が幸福や豊かさの証明にはならないという考え方です。

一方で、お金そのものが実体から離れて動き回ってしまう現象も見逃せません。国際決済銀行の調査によれば、世界の外国為替取引は一日あたり7兆5000億ドルを超える規模にのぼり、これは実際にモノやサービスが取引される規模をはるかに超えています。つまり、世の中を流れるお金の大半は、誰かの生活を直接豊かにするための取引ではなく、お金がお金を生むためだけの取引に使われている可能性が高いというわけです。この構造を知っておくと、なぜ社会に大きく貢献した人よりも、市場の値動きをうまく読んだ人のほうが儲かってしまうのか、その理由が少しずつ見えてくるでしょう。

 

稼ぐ才能と、創る才能は別のスキルである

ここまでの話を踏まえると、稼ぐことと価値を生み出すことがすれ違う理由は、実はとてもシンプルなところにありそうです。優れた技術や発明を生み出す才能と、それを収益に変えていく才能は、まったく別のスキルだからです。すばらしい商品や仕組みを作った人が、必ずしもその果実を自分の手にできるとは限りません。特許や知的財産の仕組みが整っていない分野では、価値を生み出した人よりも、それを流通させたり売り込んだりする力を持つ人のほうが、利益を独占しやすい構造ができあがってしまいます。

株式市場を見ても、同じことが起きているのがわかります。企業の株価は、実際にどれだけ社会に貢献しているかよりも、投資家が将来どれだけ儲かりそうかと期待する気持ちに大きく左右される傾向があります。世界取引所連盟のデータによると、世界の株式時価総額は2024年時点で115兆ドルを超える規模まで膨らんでおり、その伸び方は実体経済の成長スピードをはるかに上回るペースで進んできました。価格という数字だけを追いかけていると、社会が本当に豊かになっているかどうかという、いちばん大事な問いをうっかり見失ってしまう恐れがあります。

 

自分なりの価値の測り方を持つということ

お金を稼ぐことと価値を生み出すことは一致しないという前提に立つと、次に大切になってくるのは、自分の仕事や暮らしをどんな物差しで評価するかという姿勢でしょう。収益の額だけを基準にしてしまうと、市場が生み出す歪みをそのまま自分の中に取り込んでしまうことになりかねません。誰にどんな形で役立っているかを、金額とは切り離して眺めてみる習慣が、これからますます必要になっていく気がします。

企業の世界でも、こうした考え方は着実に広がりを見せています。国連責任投資原則への署名機関数は2024年時点で5000を超えており、投資判断の基準に財務指標だけでなく社会的な意義を組み込もうとする動きが実際に進んでいます。お金という単一の尺度に頼りすぎず、労働の質や社会への貢献度といった複数の軸で自分の仕事を見つめ直してみる。そうした小さな積み重ねこそが、稼ぐことと創ることのあいだにあるずれを埋めていく、いちばん確かな一歩になるのではないでしょうか。

カテゴリ
マネー

関連記事

関連する質問