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「うちには関係ない」は危険——基礎控除縮小で変わった相続税の常識

「お父さんの遺産に税金がかかる」が普通の家庭で起きている

「うちは資産家じゃないから、相続税なんて関係ない」——そう思っている方ほど、一度立ち止まって考えてほしいことがあります。

親が生涯をかけて購入した戸建て住宅と、30年間コツコツ積み上げた退職金や預貯金。それだけで相続税の課税ラインを超えてしまうケースが、都市部を中心に年々増えています。国税庁が2025年12月に発表した令和6年分の相続税申告状況によると、全国の課税割合は10.4%と過去最高を更新しました。2026年現在、相続税の課税対象となる被相続人は10人に1人を超えた計算になります。30人学級に置き換えれば、クラスに3人以上が「相続税を払う家庭の子ども」という現実です

改正前の2014年時点での課税割合は4.4%でしたから、10年ほどで2倍以上に膨らんだことになります。この数字の背景にあるのが、2015年に施行された相続税の基礎控除の縮小で。改正前は「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」だった基礎控除が、改正後は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」に引き下げられました。配偶者と子ども2人の3人家族で比較すると、8,000万円あった基礎控除が4,800万円になり、差額は3,200万円にのぼります。率にして約40%の削減です。この変化は、富裕層だけでなく、ごく普通の資産形成をしてきた家庭にも直接影響を及ぼしています。

 
なぜ「普通の家」がこれほど影響を受けるのか

制度の変化だけを見ると、話はシンプルに見えます。バブル期に地価高騰に合わせて引き上げられた基礎控除が、バブル崩壊後も長らく据え置かれており、その歪みを正すための改正だったわけです。ところが実際に起きたことは、政策立案者が想定していた以上に中間層へ波及しました。

その理由として大きいのが、地価の再上昇です。2013年の税制改正大綱が設計された当時、バブル後の地価水準を前提として控除水準が決められました。しかしその後、日銀の低金利政策や海外投資家による不動産購入、株高による資産効果が重なり、東京を中心に地価は再び上昇を続けました。設計時に「都市部の一般家庭はギリギリ課税されない」はずだった控除水準が、10年も経たないうちに「都市部の普通の戸建てはほぼ課税対象」へと変わってしまいました。

もうひとつ見落とされがちなのが、「不動産の含み益」の問題です。相続税は被相続人が亡くなった時点の財産評価額に課税されます。1980年代に2,000万円で購入した世田谷区の戸建てが、現在の路線価評価で7,000万円を超えることも珍しくありません。その評価額は課税対象に算入されますが、不動産には当然ながら現金がついてきません。子どもたちは「家を売るか、現金を工面するか」という選択を迫られます。相続税が「資産家の問題」ではなく「不動産を持つ中間層の現金不足問題」へと姿を変えるのは、こうした構造によるものです。

 
東京の数字が突きつける現実

令和6年の全国平均課税割合は10.4%ですが、東京都はその2倍の20%に達しており、5人に1人が相続税の課税対象です。東京23区内では、令和5年時点で千代田区48.4%、渋谷区36.5%、杉並区32.2%、世田谷区31.4%という水準になっています。

注目すべきは杉並区や世田谷区の数字でしょう。これらのエリアは「超高級住宅街」というわけではなく、30〜40代のサラリーマン世帯が住宅ローンを組んで購入してきた住宅地の代表格です。それでも死亡者の3人に1人が相続税の課税対象になっているという事実は、「相続税は富裕層の問題」という認識がいかに実態とかけ離れているかを物語っています。

課税対象者の内訳でも、令和4年分の相続税申告において課税価格が1億円以下の被相続人は全体の約61%を占めています。課税対象者の過半数は「億超えの資産家」ではなく、自宅と退職金と預貯金を合わせて課税ラインを超えた家庭です。「自分には関係ない」という前提は、少なくとも都市部においては、もはや成り立ちにくい状況といえるでしょう。

 
気づいた今が、動き出すタイミング

制度を理解した上で重要なのは、自分の家族に当てはめてみることです。まず確認したいのが基礎控除との差額です。「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を計算し、親の不動産(路線価ベース)、預貯金、生命保険の合計と比較してみてください。都市部で戸建てを1軒持っているだけで課税ラインを超えるケースは少なくありません。

次に知っておきたいのが「小規模宅地等の特例」です。被相続人と同居していた、あるいは持ち家なしで賃貸に住んでいる子どもが相続する場合、居住用の土地の評価額を最大80%減額できる制度で、この特例が使えるかどうかで課税価格は大きく変わります。ただし、結果として相続税がゼロになるケースでも申告自体は必要であり、放置していると特例は適用されません。

生前贈与についても、ルールが変わっている点に注意が必要です。2026年12月31日までの相続については相続開始前3年以内の贈与が加算対象ですが、2027年1月1日以降の相続より順次延長され、2031年1月1日以降の相続では相続開始前7年以内が加算対象となります。毎年110万円の基礎控除内での贈与も、この加算期間内のものは相続財産に組み込まれるため、早めに始めるほど効果が大きくなります。親が70代に差し掛かっている家庭では、先送りすることのコストは想像以上に大きくなっていきます。

相続税の申告期限は被相続人が亡くなってから10か月以内と定められている一方、生前対策には数年単位の時間が必要です。「いつかやろう」と思っているうちに、打てる手が減っていくのが相続対策の怖いところです。まずは法定相続人の数と親の保有資産を書き出すことから始めてみてください。その小さな一歩が、家族の資産を守ることにつながっていきます。

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