地方活性の着火剤は「観光」。温泉街から地域を盛り上げる採進堂酒店の挑戦【福島県福島市】

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福島市・飯坂温泉に「採進堂酒店」という宿泊施設がある。「泊まれる酒屋」をコンセプトにした施設で、1階が「角打ち」(お酒を立ち飲みするスタイルのこと)スペース、2階はドミトリーになっている。

この施設のオーナーは、浪木克文氏。「飯坂温泉街オールインクルーシブプラン」の仕掛け人だ。これは採進堂酒店を含む6つの旅館の素泊まり料金に追加料金を払えば、温泉街の飲食店24店舗を自由に利用できるというものである。

全国初であるこの試みは、温泉街と地方に何をもたらすのか? 今回は、地方の温泉街から地域活性化のヒントを探ってみたい。

空き家になった文化財との出会い

浪木氏は八幡(福岡県北九州市)生まれ。妻の故郷が福島市だったこともあり、たびたび福島市を訪れていたそう。妻の故郷への移住に帯同し、5年ほど前に東京から福島市に引っ越してきた。

福島市の印象を聞いてみると、次のように語る。

「人がやさしいですね。あたたかく、人情深い人が多い気がします。また、果物や野菜がおいしいのも魅力です。それに、温泉も多いです」

もともと古民家が好きで、市内で民泊を経営されていた浪木氏。地元の人々の交流のなかで採進堂酒店と出会った。この建物は国登録有形文化財だが、それゆえもらい手がなく、長い間、空き家となっていた。

「この建物がかなり気に入りまして、当時の所有者の方にプレゼンをし、無事購入することができました」

晴れて文化財を所有することとなった浪木氏は、建物のリノベーションを行い、2025年11月16日に「酒と旅の拠点」として空き家を宿泊施設としてよみがえらせた。取材日当日(2026年8月3日)も、11名の宿泊団体客が泊まっており、にぎわっていた。

キーワードは「泊食分離」。温泉街全体を潤す仕組み

今回注目している「オールインクルーシブプラン」だが、どのように生まれたのか。

「宿泊施設側からすると、宿泊者が少ない平日に料理を作るのは負担になります。一方で、宿泊客からすると、宿のご飯も良いけれど、宿泊は素泊まりでも良いから、できれば温泉街の飲食店で食べたい。地元の飲み屋だと、地元の方と交流できる楽しさがありますよね。そこで『また遊びに来てよ』と言われると、また来たくなる。当然、地元の飲食店も潤いますし、リピーターになってもらうことで、温泉街全体がにぎわます」

つまり、オールインクルーシブプランは宿泊施設側にも、宿泊客側にもメリットがあるということだ。さらに、温泉街全体にもプラスであり、皆が幸せになる。浪木氏は、そのWin-Win-Winな状態に着目し、この企画を仕掛けていった。

確かに、温泉旅行をすると、ホテルや旅館から一歩も出ずに完結してしまうことが多々ある。しかし、地元の街に繰り出し、地元民しか知らない情報を得られるのも、また旅の醍醐(だいご)味だ。飯坂温泉のオールインクルーシブプランは、宿泊者目線からしても、温泉街をより味わうのに最適なプランだと感じた。

「観光」が市全体を活性化する

飯坂温泉のある福島市も、他の都市と同様に人口流出が止まらない。この原因についても浪木氏に聞いてみた。

「福島市には、若い人や女性の方が志望する仕事が多くありません。だから市外に流出してしまうのですが、こと『観光』の仕事については、若い人にも女性の方にも人気があります。観光業は、宿泊・交通・飲食それぞれに利益が出るものなので、地方経済にもプラスになりますよね。だから観光業に力を入れることは、福島市の経済を盛り上げることにつながるのです」

飯坂温泉は温泉宿も多く、ある程度の街を形成している。まずは飯坂温泉で成功モデルをつくり、市全体に波及させていきたいと浪木氏は語る。

飯坂温泉を盛り上げるアイデアの種

浪木氏はさらなるアイデアを教えてくれた。

「今後の展開ですが、現在も取り組んでいる『街歩きツアー』などのアクティビティを充実させていきたいですね。さらに、この温泉街に福島県産農作物が集まる市場と飲食店街を作りたい。スペインに『サン・ミゲル市場』という場所があるのですが、そこではタパスとワインをテイクアウトして巡れるような楽しさがあるんです。そのような市場が作れたらいいですね。夢は広がるばかりです(笑)」

採進堂酒店から「日本一の温泉街」を目指す

採進堂酒店は、福島県の地酒が1杯700円で楽しめる。福島名物「いかにんじん」が味わえるおつまみ2種(500円)も好評だ。実は福島県は全国新酒鑑評会で2年連続日本一になっている、名実ともに地酒がおいしい県である。お酒好きにはたまらないだろう。

「この採進堂酒店を起点として、飯坂温泉を盛り上げていきたいですね。そして、飯坂温泉を『日本一の温泉街』したいです」

「採進堂酒店」のハッピを着て、今日も何かをたくらむ浪木氏。今後のアクションに注目だ。

なお、採進堂酒店の1階はお座敷になっている。酒屋だった頃の名残だろうか。お酒の看板が掲げられている。

2階のドミトリーの1室はこのようになっている。お酒を飲み交わしながら、仕事のこと、プライベートのことを語ると、さぞ楽しい旅行になるだろうなと思った。

これがオールインクルーシブプランの「パスポート」だ。これさえあれば、飯坂温泉を存分に堪能できる。

パスポートの裏側には、共同浴場の回数券などが入っている。個別に温泉街を巡るより、オールインクルーシブプランで巡ったほうが、かなりお得になると思われる。

飯坂温泉を巡ってみる

飯坂温泉は、あのヤマトタケルもお湯に浸(つ)かった という伝説もあるほど、歴史の古い温泉である。

飯坂温泉へのアクセスだが、東北新幹線「福島駅」から温泉街を結ぶ「福島交通飯坂線」が通っており、「福島駅」からは20分ほどで着く。東急電鉄株式会社 の車両に懐かしさを感じる人もいるかもしれない。

飯坂温泉には東北出身選手のみで編成された、eスポーツのチームである「IBUSHIGIN(イブシギン)」の練習場兼住居がある。「ストリートファイター2」「ザ・キング・オブ・ファイターズ」などの格ゲー世代には刺さるコンテンツだろう。

飯坂温泉には共同浴場も多い。なかでも「鯖湖湯(さばこゆ)」は、かの松尾芭蕉も入湯した浴場と言われている。

与謝野晶子と正岡子規も訪れたという。詠んだ和歌や句が刻まれている。

※写真は全て筆者が撮影(2026.08.03)

情報

採進堂酒店
住所:福島県福島市飯坂町字湯沢9-2
HP:https://saishindousaketen.com

情報提供元:ローカリティ!

安齋慎平
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カテゴリ
[地域情報] 旅行・レジャー

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