「必要とされていない」と感じるとき、人はなぜ孤独になるのか

「自分の居場所がない」と感じたことはあるでしょうか。職場では表面上うまくやっているのに、なぜかいつも自分だけ取り残されているような気がする。家族といても、友人といても、心がどこかふわふわと浮いている——そんな感覚です。
これは特別な人だけが感じる悩みではありません。日本財団が2021年に実施した調査では、日本人の4割以上が孤独を感じていると回答しており、特に20代では約半数が「しばしば孤独を感じる」と答えていました。これだけ多くの人が「どこかに属している」はずなのに、居場所のなさを訴えているのはなぜでしょう。その答えは、「場所」の中にはないかもしれません。
場所を変えても、満たされない理由
居場所がないと感じると、「もっと自分に合う環境に移れば変わるはず」と考えたくなるものです。転職する、引っ越す、新しいコミュニティを探す——行動自体は悪くないのですが、それだけでは根本的な解決に至らないことがほとんどでしょう。
社会心理学の世界に「所属欲求」という考え方があります。人間は「どこかにいること」ではなく、「誰かにとって意味のある存在であること」を求めている、という欲求です。つまり人は、物理的にその場にいるだけでは満たされず、自分がその関係の中で何らかの役割を果たせているかどうかが、居場所の感覚を大きく左右するということです。
職場で考えると分かりやすいかもしれません。毎日同じフロアで顔を合わせていても、自分がそこにいる理由が曖昧なとき、人は疎外感を覚えます。逆に小さなチームでも「自分がいなければ回らない」と感じられる瞬間があると、不思議と帰属意識が生まれるものです。居場所とは空間の話ではなく、関係性の中に生まれる感覚といえます。
つながりは「数」より「中身」で決まる
SNSが当たり前になった今、以前よりはるかに多くの人と「つながれる」時代になりました。フォロワーが何百人いても、グループチャットに何十も入っていても、孤独を感じる人は減っていません。2023年にアメリカの公衆衛生局長官が発表した報告書によると、アメリカ成人の約半数が孤独感を経験しており、SNSの利用時間が長い人ほど孤独感が強い傾向にあることも示されていました。
この皮肉な現実が教えてくれるのは、つながりの豊かさは数では測れないということです。深いつながりは、ただ同じ場にいるだけでは育ちません。何かを一緒にやり遂げる体験、誰かのために動く体験、自分が頼られる体験——そういった「役割を伴う関わり」の積み重ねの中で、はじめて人と人の間に実質的な絆が生まれます。
また、国立社会保障・人口問題研究所の調査でも、友人の数よりも「困ったときに頼れる人がいるかどうか」という質的な指標のほうが、幸福感と強く結びついていることが示されています。大事なのは関係の量ではなく、自分がその関係の中で果たしている役割の感覚なのでしょう。
小さな役割が、居場所をつくる
では役割は、どうやって見つければいいのでしょう。最初から大きなことをしようとする必要はありません。「誰かの相談に乗る」「会議の内容を整理して共有する」「コミュニティに来たばかりの人に声をかける」——そんな小さなことでも、続けることで関係の中に自分の居場所が少しずつつくられていきます。
ハーバード大学が75年以上かけて行ってきた研究では、人生の満足感に最も強く影響するのは収入や地位ではなく「良好な人間関係」だと繰り返し示されています。そしてその関係は、互いに何かを提供し合う双方向のやりとりの中で育まれます。自分が「受け取るだけ」の立場から「与える側にもなれる」立場に変わったとき、関係の質はがらりと変わるものです。
ボランティア活動と孤独感の関係を調べた研究も複数あり、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの調査では、定期的にボランティアをしている人は孤独感が低く、精神的な健康状態も良好なことが確認されています。ボランティアという「場所」が特別なのではなく、誰かの役に立つという感覚そのものが、人に帰属感をもたらしているからと考えられます。
居場所は探すより、つくるもの
居場所は、与えられるものではなく、自分の関わり方を通じてつくっていくものかもしれません。「自分を受け入れてくれる場所を探す」という視点から、「この場所で自分にできることを探す」という視点に少しだけ軸を移すだけで、同じ環境がまるで違って見えることがあります。
子育て中の親がPTA活動に参加したとき、最初は義務感で出席していたのが、役割をこなすうちにいつの間にかその場が居場所になっていた、という話は珍しくないでしょう。職場でも、新しい同僚のサポートを引き受けたことをきっかけに、チームとの一体感が生まれたという経験を持つ人は少なくないはずです。役割とは、先に関係があって生まれるものではなく、役割を持つことで関係が育まれていくものでもあります。
心理学的に見ると、誰かへの貢献行動は自己効力感を高め、結果として対人不安を和らげる効果があることも分かっています。居場所がないと感じているときこそ、「何をしてもらえるか」ではなく「何ができるか」を出発点にして動いてみると、思いのほか大きな変化が生まれるでしょう。
「居場所がない」という感覚は、弱さの表れではありません。それは、誰かにとって意味のある存在でありたいという、ごく自然な人間としての欲求です。場所を探し続けるのではなく、今いる場所で小さな役割を見つけることから始めてみてはいかがでしょうか。
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