友人が少ない人ほど老後が豊かになる?逆説的なデータが示す「孤独の価値」

「友達は多いほどいい」という言葉、一度は耳にしたことがあると思います。広いつながりを持っている人ほど人生が充実していて、老後も安心——そんなイメージを、なんとなく信じてきた方は多いでしょう。ところが、世界中の研究者たちが長年かけて集めたデータを見ると、話はそう単純ではありません。むしろ、友人の数が少ない人のほうが老後の幸福度が高い、という結果が繰り返し出てきているのです。その背景を掘り下げると、人間関係についての見方がちょっと変わってくるかもしれません。
「数」ではなく「深さ」が幸福を左右する
ハーバード大学では1938年から、700人以上の男性を80年以上追いかけ続けた「成人発達研究」という世界最長クラスの調査を行ってきました。何十年分ものデータを分析した結果、研究者たちが行き着いた答えはシンプルなものでした。老後の幸福度を決めるのは、友人の数でも財産でも社会的な地位でもなく、「人間関係の質」だったのです。
研究を率いたロバート・ウォールディンガー教授は、「孤独はタバコと同じくらい体に悪い」と言います。ただ同時に、「大勢に囲まれていても孤独を感じている人は、少人数でも深くつながっている人より、ずっと不健康だ」とも述べています。友人が多いこととと、心から安心できる関係があることは、まったく別の話だというわけです。
オックスフォード大学のロビン・ダンバー教授が提唱した「ダンバー数」という概念も、この話と深く関わっています。人間が安定した関係を維持できる人数はおよそ150人が上限で、そのなかで本当に心を開けるコアな関係はわずか5人前後だとされています。友達リストをどんどん増やしても、脳と心がキャパオーバーになるだけで、深い関係にはつながりにくいのです。広く浅くつながろうとすればするほど、少数の深い関係に割けるエネルギーが減っていく構造になっています。
広い交友関係には「維持コスト」がかかる
友人が多いということは、楽しいだけではありません。誕生日を覚えて連絡し、冠婚葬祭に顔を出し、久しぶりの人との近況報告をこなし、困ったときには駆けつける——こうしたことの積み重ねが、広いつながりを維持する「コスト」になっています。時間もエネルギーもお金も、じわじわと消費されていきます。
若いうちはそれでもなんとかなるものですが、定年退職後に体力も収入も変わってくると、このコストが意外と重荷になるケースがあります。日本老年学会の調査では、65歳以上の高齢者の約30%が、人間関係の義務感をストレスの原因として挙げていました。表面的なつながりをたくさん抱えていることが、気づかないうちに心の疲れを生んでいるわけです。
友人が少ない人は、その代わりに少数の関係に時間とエネルギーを集中させています。相手のことをよく知っているから、細かい気遣いも自然にできる。体力が落ちて遠出が難しくなっても、近くにいる数人との関係はむしろ安定しやすい。「友人が少ない」というのは、決して社会的な失敗ではなく、限られたリソースをうまく使ってきた結果ともいえます。
「一人でいられる力」と、パートナーシップの深さ
友人が少ない人がもう一つ持っている強みが、一人の時間をうまく過ごせる力です。心理学ではこれを「ソリチュード(solitude)」と呼び、孤立とはまったく異なるものとして区別されています。自分の内側に向き合い、好きなことに没頭できる時間は、精神的な安定や創造性を高めることがわかっています。
内閣府の「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(2020年版)によれば、日本の高齢男性の約40%が「友人が一人もいない」と答えており、これが深刻な孤独感の原因になることも多いのは事実です。ただ、もともと一人の時間に慣れていた人は、定年後に社会とのつながりが変化しても、その変化に柔軟に対応しやすい傾向があります。広い交友関係に依存してきた人が、その関係が崩れたときに大きなダメージを受けやすいのとは対照的です。
そして、老後の幸福を支えるうえで見逃せないのが、パートナーとの関係の質です。前述のハーバード研究では、50代のときにパートナーとの関係に満足していた人は、80代になったときの認知機能が高い傾向があったと報告されています。何十年分ものデータが示すのは、広い友人関係よりも、一人の深いパートナーシップのほうがずっと大きな意味を持つという事実です。国立社会保障・人口問題研究所の2019年の調査でも、良好なパートナーシップを持つ高齢者は、そうでない人に比べて主観的な幸福感が約1.8倍高いという結果が出ています。
友人が少ないことを、ずっとどこかで気にしてきた方もいると思います。でも、データが示すのは、人間関係の豊かさは数で決まらないということです。少なくても深く、お互いをよく知っていて、いざというとき頼り合える関係——それこそが、長い人生の後半を支える本当の財産です。
老後の幸福は、友達リストの人数ではなく、心から安心できる一人か二人との日常のなかに宿っているのかもしれません。
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