デジタル遺言サービスの普及で変わる終活、法的有効性はどうなるのか
デジタル遺言サービスだけでは相続は決められない
スマートフォンやパソコンで、自分の財産や家族への希望を残せるデジタル遺言サービスが増えています。文章だけでなく、写真や動画、音声を保存できるものもあり、「終活を始めたいけれど、遺言書を書くのは少し重い」と感じる人にとって使いやすい選択肢でしょう。ただし、2026年9月現在、民間のサービスに財産の分け方を書いておけば、それだけで法律上の遺言になるわけではありません。「自宅を長男に相続させたい」「預金は子ども2人で半分ずつ分けたい」と入力しても、法律が定める方式を満たしていなければ、希望どおりに相続できない可能性があります。
現在の自筆証書遺言では、財産目録を除き、本文や日付、氏名などを本人が自書することが基本です。作成した遺言書は自宅で保管するほか、2020年7月に始まった自筆証書遺言書保管制度を利用して法務局に預けることもできます。保管申請の手数料は1通3,900円で、この制度を利用した遺言書は相続開始後の家庭裁判所による検認が不要です。 現在のデジタル遺言サービスは「正式な遺言の代わり」ではなく、財産や希望を整理するための道具と考えると分かりやすいでしょう。
2026年の法改正で「デジタルで作る遺言」が現実へ
こうした状況は、今後大きく変わります。2026年6月17日に成立し、同月24日に公布された民法等の改正では、新たに「保管証書遺言」が創設されました。法務省によると、電子データなどを利用して内容を作成し、法務局で保管する仕組みが導入されます。紙に手書きする方法を中心としてきた日本の遺言制度に、デジタル技術を活用した新しい選択肢が正式に加わることになります。文字を長く手書きすることが負担になっている人にとっても、遺言を準備しやすくなることが期待されます。
一方で、2026年9月時点では保管証書遺言をまだ利用できません。法務局のシステム改修が必要なため、この制度は2026年6月24日の公布から3年を超えない範囲で、政令により施行日が決められます。つまり、法律は成立したものの、実際に利用できる段階とは分けて考える必要があります。遺言書への押印を任意とする見直しについては、公布から1年を超えない範囲で施行される予定です。 「デジタル遺言が認められた」という情報だけを見て、現在すでにスマートフォンだけで正式な遺言を作れると受け取るのは避けた方がよいでしょう。
法的効力には「本人の意思を証明できること」が欠かせない
デジタル化が進んでも、好きな形式で遺言を残せるわけではありません。遺言は預貯金や不動産などの行方を決めることがあり、相続人の権利にも大きく影響します。そのため、「誰が作ったのか」「本当に本人の意思なのか」「作成後に書き換えられていないか」を確認できる仕組みが欠かせません。パソコンで作った文章だけでは、本人が入力したのか、家族など別の人が作ったのかを判断することが難しいケースもあります。便利さだけを優先すると、亡くなった後に遺言の真正性を巡って争いが起こる可能性もあると考えられます。
現在の自筆証書遺言書保管制度でも、遺言書を法務局が保管することで、紛失や改ざんを防ぐ仕組みが設けられています。法務局では自筆証書遺言の方式について外形的な確認も行われます。 新しい保管証書遺言も、単にデータを保存できる仕組みではなく、法務局で保管することによって信頼性を確保する考え方です。デジタル化によって作成の負担を減らしながら、本人の最終意思をどのように守るか。このバランスが、今後のデジタル遺言を考えるうえで大きな論点になるといえます。
今は「財産整理はデジタル、相続指定は正式な遺言」で考える
では、現在のデジタル遺言サービスにはどのような使い道があるのでしょうか。銀行口座、保険、不動産、証券口座、ネット上の契約などをまとめておけば、自分の財産を整理するきっかけになります。SNSやサブスクリプションなど、本人しか存在を把握していないサービスも珍しくありません。葬儀についての希望や家族へのメッセージなど、必ずしも法律上の効力を必要としない内容を残す用途にも向いています。こうした情報を生前に整理しておくことで、残された家族の負担を減らせる可能性があります。
一方、誰に不動産を引き継がせるか、預貯金をどのように分けるかなど、相続について法的な効果を求める内容は、その時点で認められている方式の遺言で残す必要があります。現状では「財産や希望の整理はデジタルサービス、相続方法の指定は自筆証書遺言や公正証書遺言」と役割を分ける方法が現実的でしょう。2026年の法改正によって、デジタルで作成できる遺言は制度として一歩前進しました。保管証書遺言が施行されれば、遺言作成の選択肢は広がることが見込まれます。それまではデジタル遺言サービスだけで準備を終えたと考えず、正式な遺言と組み合わせて利用することが、本人の希望を家族へ確実に残す方法ではないでしょうか。
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