大手ショッピングセンター撤退後の街を「手作りマルシェ」で盛り上げる、ある夫婦の挑戦【福島県福島市】

ローカリティ!

今、地方の駅前から商業施設が無くなっている。

福島県福島市もその一つ。県庁所在地でありながら、駅前からデパートが消えた。大型ショッピングセンターも、駅ビルを残して無くなっている。新幹線が停まる駅の目の前が更地になっている現状は、かなり寂しいものがある。

しかし、今回取材した阿部猛志(あべ・たけし)さん、阿部彩(あべ・あや)さん夫妻は、全くの素人ながらマルシェを駅前で始め、来場者数5000人規模の大きなイベントに成長させた。

自分たちを「ごく普通の夫婦」とへりくだる2人が、どのような想いでマルシェを企画し、イベントを育てていったのか。「ひだまりマーケット」事務局である、猛志さんにインタビューを行った。

ある日、西口から1つのショッピングセンターが無くなった
撤退前のイトーヨーカドー福島店(写真は筆者が2023年に撮影)

かつてJR福島駅西口には、イトーヨーカドー福島店があった。しかし、2024年5月に閉店し、その後広大な更地になっている。

「ヨーカドーが無くなり、おばあちゃんの家がなくなったような気持ちになりました」

猛志さんはそのように話す。単純に買い物が不便になったという気持ちではなく、自分の中にあった数々の思い出や当たり前の日常が無くなってしまったように感じた、と当時を振り返った。

猛志さんの喪失感は大きかったそうで、「このまま何もしないで良いのか」という気持ちだったという。

「誰かのため、地域のために自分の手足を使って動かないといけない。そう感じたんです」

しかし、イベント運営に関しては素人だった。何から始めれば良いのか、わからない状態だったと話す。

普通の日常から、イベントを立ち上げるまで
阿部猛志さん、阿部彩さん夫妻(写真は猛志さん提供)

猛志さんは福島市職員である。地域づくりに関心はあったが、実際に主導して地域活動をしたことはなかった。

市職員として忙しい日々を送っているうちに、気付けば仕事と子育て、アニメとゲームに興じる日々を送っていた。

そんな猛志さんが、ある日突然、「イトーヨーカドーが無くなった西口で、地域のために何かをしたい」と言い出した。

「妻(彩さん)は、それまで普通の日々を送っていた夫が『何かやりたい』と言い出したことに驚いたようでした。同時に、『やらないで後悔させたくない』という気持ちを持ったようです」

そのように猛志さんは振り返る。

彩さんはマルシェに出店した経験があり、複数の店舗から「マルシェへの出店なら協力できそうです」と声をかけてもらった。これが開催を後押しする大きなきっかけになったという。

「妻は人とのコミュニケーション能力が高く、女性・母親としての生活者の感覚、そしてかわいいものや人が喜ぶものを見つける感覚を持っています。だから、妻と一緒にイベントをやろうと思いました」

実績もないゼロからのスタート。そして大雨に見舞われる
マルシェの様子(写真は猛志さん提供)

イベントが走り出したものの、決して順風満帆ではなかった。名刺も実績も組織も肩書きも無い。猛志さんは公務員ではあったが、本業の肩書きに頼れるはずも無かった。

「各所を訪問する際も、『阿部猛志です』『阿部彩です』と言っているだけで、最初は信用してもらうのが難しかったです」

少しずつ活動していくと、ボランティアも少しずつ集まってきた。イトーヨーカドーの元職員の人たちも協力してくれたという。

「特に忘れられないのは第2回目の時ですね。ものすごい雨が降り、正直かなり心が折れました。でも、その雨の中、傘を差して来てくれる人がいたんです。『こんな雨でも来てくれる人がいるなら、まだ続けられる』と、逆に覚悟が決まりました」

夫婦だから喧嘩もした。しかし、夫婦だからイベントは続いた
賑わいを見せる「ひだまりマーケット」(写真は猛志さん提供)

猛志さんは本業があるため、プライベートの時間を割いてイベントの準備をしてきた。

「当然、喧嘩もしました。仕事が忙しく、つい妻と口論になってしまって…。たぶん余裕が無かったんだと思います」

夫婦で運営しているからこそ、家でもずっと「ひだまりマーケット」の話をしてしまう。二人とも真剣だからこそ、時に衝突してしまう。しかし、夫婦だからこそ遠慮なく言い合えるし、違う視点を持ち込める。

夫婦で探り探りの状態でイベントを進め、第3回には会場を駅前広場まで広げた。来場者数は約2500人にまで増えた。

その後も開催を重ね、第5回には福島市との共同企画も実現。約5000人が訪れるイベントへと成長した。

イベントへの多様な「関わり方」が、さらに多くの人を巻き込んだ
キッチンカーも出る大きなイベントに(写真は猛志さん提供)

猛志さんは、イベントが大きくなった理由の一つに、「多様な関わり方」が広がったことを挙げている。

「例えば高校生が運営を手伝ったり、出店者同士が知り合ってコラボ商品が生まれたり、自分で改善策を考える人が出てきたんです。事務局である私たちからきっかけを提示するだけでなく、参加者自身が自走するようになっていきました」

この多様な関わり方を、猛志さんは「余白」と表現する。

「イベントに参加するというと、負担に感じる方もいらっしゃいます。ですが、どんなことでも良いんです。会場内で『本の読み聞かせをする』『楽器を弾く』『写真を撮る』などなど。大きなことじゃなくて良いんです。ちょっとした関わり方をする人が増えていったことが、このマーケットが育った要因ではないかと思っています」

こうした主催者側が全部を決めすぎない「余白」も、ひだまりマーケットが地域に根付いていった理由の一つなのだろう。

ハードとソフトの両輪で地域を盛り上げていく

イベントが人々を笑顔にする(写真は猛志さん提供)

実は、イトーヨーカドー福島店跡地周辺では、最近になって大きな動きがあった。

2026年、駅ビルに県内初出店のスーパーなど複数の飲食店や小売店ができた。同年、イトーヨーカドー跡地を県内の建設会社が取得し、早ければ2029年には再開発の着工を目指すと発表している。

2026年9月15日には、このエリアの休日1日あたりの通行量が、前年比約4倍になったと市から発表があった。

これについて、猛志さんはどのように感じているのだろうか。

「にぎわいが戻ってくるのは嬉しいことです。建物や商業施設などの『ハード』の用意は、行政や民間企業が担っていくと考えます。でも、そこで人が話したり、知り合ったり、『ちょっとやってみようかな』と思える空気は、市民側からもつくれると思っています」

猛志さんは、自分たちの役割を「ハードに『ソフト』や『魂』を吹き込むこと」と表現する。

商業施設などの「ハード」が街に人を呼ぶ一方で、そこにどのような人のつながりを生み出すかは、また別の課題なのかもしれない。

だからこそ、地域はハードにコミュニティという血を通わせる必要があるのではないか。そのように猛志さんは語る。

イベントありきではない、街づくりのあり方を模索していく
次回は2026年9月27日(日)に開催される予定だ(写真は猛志さん提供)

恒例行事となった「ひだまりマーケット」。だが、猛志さんは次のように語ってくれた。

「イベントを惰性で続けることが、目的ではありません。妻も『ひだまりマーケットが終わる時は、慣れて考えなくなった時』と考えています。その時々のこのエリアの状況を見て、考えて、小さく試す。それ自体が私たちなりの街づくりなのではないかと思っています」

誰かが街を変えてくれるのを待つのではなく、「自分にも何かできるかもしれない」と思える人を一人ずつ増やしていく。「ひだまりマーケット」がつくろうとしているのは、にぎわいそのものより、そんな「関わるきっかけ」なのかもしれない。

情報

ひだまりマーケット
会場:福島駅西口駅前広場・西口緑地
HP:
https://hidamari-fukushima.com/

情報提供元:ローカリティ!

安齋慎平
ローカリティ!は、地元に住む人々が、自分が大好きな地元の人やモノや出来事を、自分で世界に発信し、
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カテゴリ
[地域情報] 旅行・レジャー

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