乗り合いトラックに揺られて地図の余白へ。タイ最北西部の秘境・メーサムレープ村の滞在記【タイ・メーサムレープ】
タイ最北西部、ミャンマーとの国境近くに、Mae Sam Leap(メーサムレープ)という小さな村がある。
観光ガイドブックにも、Googleマップにも、詳しい情報はない。日本語はもちろん、英語で検索してもほとんど情報はないし、Instagramの位置情報さえ見つからない場所である。
本当の秘境とは、秘境とすら呼ばれないものだ。
メーサムレープは、ミャンマーとの国境を流れるサルウィン川沿いに位置する。前回の記事に登場したメーサリアンからは山道を進む必要があり、村へ向かう道のりそのものが、すでに冒険である。
タイ北西部の秘境・メーサリアンの伝統祭りOk-Wa。雨季が明け、町が灯りに包まれる(前編)【タイ・メーサリアン】
タイ北西部の秘境・メーサリアンの伝統祭りOk-Wa。雨季が明け、町が灯りに包まれる(後編)【タイ・メーサリアン】
黄色いトラックに揺られて
村へ向かうために利用したのは、黄色いトラックだった。
タイで「ソンテウ」と呼ばれる、荷台を改造した乗り合いトラックである。地方では、バスやタクシーが十分に走っていない地域も多く、ソンテウが貴重な移動手段となっている。
タイ語を話せない旅行者でも、都市部のソンテウなら、行き先を確認しながら何とか利用できるかもしれない。しかし、地方で使いこなすのは簡単ではない。
どこから乗るのか。どこで降りるのか。そもそも、目的地まで運行しているのか。
現地でボランティア活動をしている後輩の案内がなければ、村までたどり着くこと自体が難しかっただろう。
車体の揺れに身を任せながら、山道を進む。
便利さから少しずつ離れていくほど、目の前に現れる風景は、普段の旅とは違うものになっていった。
激流のそばにある静かな時間
村のそばを流れるサルウィン川は、想像していた以上に激しかった。
川幅のある水面を、濁流が勢いよく進んでいく。岩にぶつかる水音は大きく、川の流れには人間の力では到底かなわないような強さがある。
それなのに、そのほとりで営まれる人々の時間は、不思議なほど静かだった。
家々が並び、住民が行き交い、川の近くではそれぞれの生活が淡々と続いている。
激しく流れる川と、ゆっくりと流れる暮らし。
そのコントラストが、この村を強く印象づけた。
中でも印象的だったのは、僧侶たちの洗濯物が干されていたシーンだった。
寺院の周辺に干された衣服は、特別な演出があるわけではないけれども、そこには確かな生活感があった。
遠く離れた土地にある寺院も、そこで暮らす人々にとっては、食事をし、洗濯をし、日々を過ごす場所である。
旅先では、壮大な景色や歴史的な建造物などに目を奪われがちだ。しかし、何気なく干された洗濯物のような風景にこそ、その土地の暮らしが表れることがある。
頬に描かれた自然の化粧
村を歩いていると、顔に白っぽい模様を塗った親子の姿が目に入った。
頬や額に塗られているのは、「Thanaka(タナカ)」と呼ばれる天然の化粧である。
タナカは、木の皮などをすりつぶして作られるもので、化粧や日焼け止めとして使われている。ミャンマーをはじめ、ビルマ系の文化が広がる地域でよく見られる習慣だという。
装飾のようにも見えるが、そこには日差しの強い土地で暮らす人々の知恵がある。
親子の顔に同じように塗られたタナカを見ていると、土地の文化が、特別な儀礼の場だけではなく、日常の身だしなみとして受け継がれていることに気づく。
一期一会の村祭り
この日、村では豊作を祝う祭りも行われていた。
訪問のタイミングを事前に計画していたわけではない。たまたま訪れた日に、村の人々が集まり、祝いの時間を過ごしていたのである。
情報の少ない場所へ向かう旅には、偶然に身を任せる面白さがある。
訪れるまで何があるか分からないからこそ、目の前に現れた風景が強く記憶に残る。
メーサムレープで過ごした時間も、まさにそのようなものだった。
激流のそばで静かに続く暮らし。
黄色いソンテウに揺られてたどり着いた村。
顔に塗られたタナカ。
そして、偶然出会った豊作の祭り。
観光地として有名な場所ではなくても、そこには確かに、その土地でしか出会えない時間が流れている。
地図に載っている情報だけでは、旅のすべてを知ることはできない。
むしろ、情報が少ない場所へ向かうことで、写真に残したくなる風景や、人の記憶に残る出会いが生まれることもある。
※写真は全て筆者が撮影(2025年10月12日)
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