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インターセクショナリティが批判される理由、社会の分断との関係

複数の属性が重なったときに見えなくなる問題

インターセクショナリティという言葉を聞くと、「人を人種や性別で細かく分類する考え方」という印象を持つ人もいるでしょう。しかし、本来の目的は人をグループ分けすることではありません。米国の法学者キンバリー・クレンショーが1989年の論文で示した考え方で、人種と性別など複数の条件が重なることで生まれる不利益を捉えるために提唱されました。クレンショーが問題にしたのは、黒人女性が経験する差別を「黒人への差別」と「女性への差別」に分けてしまうと、その両方が重なった問題が制度から抜け落ちてしまうことでした。つまり、既存の分類では見つけにくかった問題を拾い上げるための分析方法として始まったといえます。

こうした視点が必要とされる背景には、同じ社会や職場にいても経験する不利益が均一ではない現実があります。Pew Research Centerが2023年に米国の労働者5,188人を対象に行った調査では、採用や給与、昇進などで人種・民族を理由に差別や不公平な扱いを経験したことがある人は、黒人労働者で41%、アジア系で25%、ヒスパニック系で20%、白人で8%でした。性別を理由とした経験では女性が23%、男性が10%です。この数字はインターセクショナリティの正しさを直接証明するものではありませんが、属性によって経験に差がある以上、一つの基準だけでは説明しきれない問題が存在すると考えられます。

 

なぜ「社会を分断する」という批判が出てくるのか

インターセクショナリティへの批判でよく語られるのが、「人の違いを細かく見すぎると、共通点より属性の違いが強調される」という問題です。女性という集団の中でも、人種、所得、年齢、障害、性的指向などを細かく分ければ、それぞれが抱える問題を正確に捉えやすくなります。その一方で、分類を増やし続ければ「共通して何を解決するのか」が見えにくくなる可能性もあります。本来は不利益を発見するための分類だったものが、「あなたはどの集団に属しているのか」を確認するためのラベルへ変われば、人を理解する手段より、人を区別する手段として受け取られかねません。

実際、インターセクショナリティと関係の深いDEIをめぐって、米国では意見の開きが見られます。DEIとは「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包摂性)」の頭文字を取った言葉です。性別や人種、年齢、障害などの違いを尊重するだけでなく、それぞれが置かれた条件にも目を向け、組織の中で公平に参加・活躍できる環境を整える取り組みを指します。企業では採用や昇進制度の見直し、働きやすい職場環境の整備などにつながる考え方として広がってきました。

一方、DEIをどこまで推進するべきかについては意見が分かれています。Pew Research Centerの2024年調査では、職場でDEIを進めることを「主に良いこと」と答えた米国の労働者は52%で、2023年の56%から4ポイント低下しました。「主に悪いこと」という回答は16%から21%へ上昇しています。共和党支持または共和党寄りの労働者では、DEIを悪いことと答えた割合が2023年の30%から2024年には42%へ増えました。多様性や公平性を目指す取り組みであっても、その方法や受け止め方によっては政治的な対立につながることがうかがえます。

 

分断を招きやすいのは「分析」より「人の評価」

ここで整理しておきたいのが、インターセクショナリティという分析方法と、それを利用した価値判断は同じではないという点です。会社で管理職に女性が少ない場合、男女比を見るだけでは原因が分からないことがあります。育児や介護の負担、雇用形態、所得、年齢などを重ねて調べることで、特定の人だけが昇進しにくくなる制度上の条件が見つかる可能性があります。この使い方であれば、属性は人間を評価するための材料ではなく、制度の問題点を探すための手掛かりになります。

一方で、「ある属性に属しているから、この人はこう考えるはずだ」と判断し始めると話は変わります。さらに「どの集団が最も不利なのか」という競争になれば、共通する問題より立場の違いが前面に出やすくなるでしょう。Pew Research Centerの2024年調査では、DEI施策が白人男性を「不利にする」と答えた米国人は36%で、「有利にする」と答えた14%を大きく上回りました。共和党支持層では56%が白人男性を不利にすると回答した一方、民主党支持層では19%です。同じ施策でも受け止め方に37ポイントもの差があることから、公平性を目的とした政策であっても、特定集団への優遇や不利益と認識されれば対立につながる可能性があると考えられます。

 

インターセクショナリティをどう使えば分断を避けられるのか

インターセクショナリティをめぐる議論を「賛成か反対か」だけで考えると、本質が見えにくくなります。複数の条件が重なったときに、制度から取り残される人を見つけるという考え方には意味があります。一方で、属性を細分化すればするほど社会を正確に理解できるとは限りません。分析に必要な範囲を超えて人を分類し、その属性から考え方や立場まで決めつければ、個人を見るはずの視点が新しい固定観念を作ることにもなります。インターセクショナリティが批判される背景には、この分析とラベル付けの境界が分かりにくくなっている事情があると思われます。

分断を避ける鍵は、「誰がより弱い立場なのか」を決めるためではなく、「どこに制度上の不利益が生まれているのか」を調べるために属性を見ることではないでしょうか。全員を同じ条件として扱うだけでは見落とす問題がありますが、違いだけを見続ければ社会の共通点が失われます。人種や性別といった属性を人の価値を測る基準にせず、制度を改善するための情報として扱う。この線を越えなければ、インターセクショナリティは社会を分断する思想ではなく、複雑な社会問題を読み解くための分析手法として活用できるといえるでしょう。

カテゴリ
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