介護を「推し活」のように楽しむ。髙橋佳奈さんが20年越しに始めた認知症カフェpause 【宮城県多賀城市】
「介護って楽しいんですよ」そう笑って話すのは、介護職歴24年、ケアマネジャーとして働く髙橋佳奈(たかはし・かな)さん。
介護と聞くと、体力的にも精神的にも大変な仕事というイメージを持つ人は少なくないでしょう。ところが髙橋さんは、介護のやりがいやこれまで出会った利用者さんとの思い出を楽しそうに話します。
「好きだからやってるんですよね。推し活とか、趣味とかと同じベースで介護をしてる」
そんな髙橋さんが、介護の現場で向き合ってきたのが認知症の人たちです。
「認知症の人」とひとくくりにするのではなく、その人が歩んできた人生やその人らしさを見てほしい。その思いを胸に、2024年、20年来の夢だった認知症カフェ「pause(パウゼ)」を立ち上げました。
なぜ髙橋さんは、介護を「推し活」のように楽しめるのか。そして、20年越しに動き出した先で、どんな場所をつくろうとしているのか。
髙橋さんの原点や認知症カフェ「pause」に込めた思いを聞きました。
介護に興味を持ったのは中学生のころ
髙橋さんは、もともとお年寄りや介護の仕事が好きだったわけではありません。「口うるさいおばあちゃんとか苦手だったんです」と笑います。
きっかけは中学生のころ、祖父と一緒にデイサービスにいったときです。家では怒られてばかりの祖父がみんなに優しくされて、穏やかな表情で過ごしている姿に衝撃を受けました。
「家じゃずっと怒られてるのに、デイサービスに来たら幸せそうで。周りのスタッフも楽しそうに見えて、介護の仕事、いいなって思ったんです 」
中学生のころ、夏休みには施設へボランティアに通い、卒業アルバムには「将来は介護福祉士になって老人ホームで働く」と書きました。
高校卒業後、紆余曲折を経て、20歳で介護の道へ。働きながらも学びは欠かさず行い、6年後の2008年に介護福祉士に、4年後の2012年に合格率11%ほどの難関、ケアマネジャーにも合格しました。
中学生のころ書いた卒業アルバムの夢が現実になったのです。
「認知症の人はちゃんと理解できる」髙橋さんが伝えたい、認知症への誤解
介護の現場では、いろいろな高齢者がいます。2026年3月までの約9年間、ケアプランの作成と介護の現場を兼務する小規模多機能型居宅介護の事業所で働いていた髙橋さんに、なぜ認知症の人に惹かれたのかを聞くと、当時のエピソードを話してくれました。
「以前の職場では、いつも利用者さんが近くにいてくれたんです。私がパソコンに向かって忙しそうにしていると、背中をさすってくれたり、『大丈夫?』と声をかけてくれたりするんです。事務所で一緒にコーヒーを飲みながらお話することもありましたね」
世間では認知症になると、「何もわからないのでは?」というイメージを持つ人は少なくありません。しかし、髙橋さんはそんな誤解を払拭(ふっしょく)したいのだと語ります。
「わけがわからないどころか、環境の変化にすごく敏感なんですよ。勝手に部屋のレイアウト変えたりすると、全然落ち着かなくなる。ゴミ箱一つでも、わかる人はわかるので。本人に何も伝えずに勝手に動かして、メンタルが不安定になるんだったらやらない方がいい。やるんだったら一緒にやってくださいと、ご家族にもスタッフにも言ってます」
続けて髙橋さんは、認知症の人に対する接し方にも問題があるといいます。
「認知症になっても、目の前にいる人が敵か味方かはよく見ているんですよ。小馬鹿にした態度を取ると、介護士でも触らせてもらえません。表情には出なくても『気を許せない』のが伝わって、拒否し出すんです。自分の嫌いな人に体を触られるのは、誰でも嫌じゃないですか。それと同じで、信じられない人にはお風呂も任せられないんですよ」
認知症も心臓病や糖尿病と同じように、向き合うべき病気のひとつ。「認知症の人」とひとくくりにするのではなく、生きてきた背景をちゃんと知って関わらないと支援もうまくいかない。だからこそ、その人を一人の人間として見るのが大事。認知症のことをもっと知ってほしいと髙橋さんは語ります。
認知症カフェを自分の手で作ろうと決めたのは、介護に疲弊するあるご家族の一言がきっかけ
「その人を見てほしい」という思いは、言葉で伝えるだけでは終わりませんでした。担当していたある利用者さんは、認知症の症状が重く、介護サービスへの拒否感が強いため、デイサービスやショートステイを利用できずにいました。
当時、小規模多機能型居宅介護事業所で現場にも入っていた髙橋さんは、自ら訪問して一緒に体操できても、他のサービスにつなげるのが難しい状況でした。自宅介護に限界を感じたご家族が地域包括支援センターに相談すると、認知症カフェへの利用を勧められたそうです。ただ、認知症カフェに行くには、ハードルがありました。
認知症カフェの開催は「第3木曜日の何時から何時まで」というように日時がピンポイントで決まっていて、本人の体調や気分が不安定なタイミングに合わせて連れ出すこと自体が難しいのです。ようやく行けても、「今日はみんなで歌を歌います」といったプログラムが決まっていて、本人がそこになじめなければ帰るしかありません。
そんななか、疲れ切った様子で、ご家族はぽつりとこぼしました。
「ずっと空いてる認知症カフェがあればいいのに」
認知症カフェは、必要な人が、必要なときに使えるとは限りません。決まったプログラムがなくてもいい、ふらっと行けば誰かがいる場所。その一言を聞いたとき、髙橋さんは「ないなら、自分が作ればいいかと思った」といいます。
「本当にやりたいの?」忙しさに追われ20年。やっと動き出した夢
ケアマネジャーになる前から、髙橋さんは認知症カフェをやりたいと思っていました。しかし介護の職場は、事業所によっては24時間365日稼働するほど過酷(かこく)です。「やりたい」というワクワクは、いつしか「いつかやれればいいな」に変わっていきました。
一度、動きかけたこともあります。利用者さんのご家族が自宅を開放してくれることになり、認知症カフェを開く計画が進んでいたのです。しかし、オープンを前にその利用者さんが亡くなり、計画は白紙に戻ってしまいました。
そうして「いつか」のまま、20年が過ぎたある日。ある人から、こんな言葉を言われました。
「いつかってさ、明日生きてる保証ないのにどうするの? 本当にやりたいなら、今やればいいじゃん。やりたいのに動かないのは、やりたくないんじゃないの?」
苦笑いしながら、髙橋さんはこう振り返ります。
「今やるしかない。背中を押されたというか、蹴られた感じです」
その言葉をくれた人が、自分が経営するカフェを無償で貸してくれました。20年抱えていた「いつか」は、あっという間に「やる」に変わり、2024年9月、認知症カフェ「pause」がオープンします。
その後、場所を貸してくれていたオーナーの事情によりカフェを閉店することになりましたが、周囲のアドバイスで「たがサポ(多賀城市市民活動サポートセンター)」に出会い、現在は毎月第3土曜日に開催を続けています。
増えていく仲間と、変わらない軸——「一人救えたら、それでいい」
認知症カフェの多くは、地域包括支援センターなどが業務の一環として開いているもの。個人で運営している例は珍しく、「やめたほうがいい」と言われることは覚悟していたといいます。
「『それ、ちょっと無理じゃない?』とか、『やめたほうがいいよ』って言われると思っていたんです。でも、そんな人はいなかった。みんなが応援してくれるから、これからもやりたいことはどんどん口に出していきたいと思っています。調子にのるって大事なんですよ 」
pauseは営利を目的とした活動ではありません。運営にかかる費用は参加費でまかない、ケアマネジャーの仕事で生活を支えながら、ライフワークとして続けています。
始めたことで、つながりも広がりました。起業セミナーで出会った仲間、活動を知って来てくれた人。「いいね」「手伝うよ」「一緒にやろうよ」と言ってくれる人たちが、少しずつ増えていきました。開催のたびに、誰かしらがボランティアとして駆けつけてくれるといいます。
認知症カフェを訪れる人は、毎回たくさんいるわけではありません。それでも、髙橋さんは続けています。
「一人来ればいいや、ぐらいの感じなんですよ。誰か一人にでも認知症のことを知ってもらえて、相談に乗って『よかった』って言ってもらえたら、それだけでやった価値があると思うんです」
目指すのは、赤ちゃんからお年寄りまで誰でも集える居場所を作ること
最後に、髙橋さんに認知症カフェをどんな場所にしたいのかを聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。
「最終的には、居場所づくりをしたいんです。赤ちゃんからお年寄りまで、誰でも自由に出入りできる。理由がなきゃいけないとかじゃなくて、ふらっと入れる場所」
本当は、「決まった日だけでなく、いつでも扉が開いている常設の場所にしたい」と髙橋さん。それは、「ずっと空いている認知症カフェがあれば」と言ってくれた、あの家族の言葉が原点にあるからです。もちろん、常設の場所を持つには資金も必要で、すぐに実現できることばかりではありません。
それでも髙橋さんは、やりたいことを口に出し、人に会い、pauseを続けています。2026年11月1日(日)には活動を通じて出会った仲間とともに実施するイベント「福祉でつながるみんなの文化祭」の開催も控えています。
「やりたいことを言うのって、プレッシャーに感じるときもあるんです。でも、言わないとやらないんですよね。尻込みしちゃうので。不安を打ち消すには、動くしかない。だから、とりあえず言ってく。『こういうことやりたいんです』って」
※写真はすべて2026年8月22日に筆者が撮影
情報
髙橋佳奈さんが運営する認知症カフェ「pause」
公式Instagram:
https://www.instagram.com/pause_1982/
※開催日はインスタで都度告知
情報提供元:ローカリティ!
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