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5000万円踏み倒されたところからのスタート。「経営理念を共に創る書道家」57歳の覚悟【京都府京都市】

ローカリティ!

48歳の時、5千万円もの未払い事件に巻き込まれ、社員は解散、離婚して家を出て、たった一人になった。そこで書道家になるという人生のかじを切った男がいる。彼の名は藤井翔夢さん(57歳)。

現在は「経営理念を共に創る書道家」という肩書きで、京都市・東本願寺の横にアトリエを構え活動している。  

普通なら自己破産すらよぎる絶望の底で、なぜ彼は未経験の「書道家」になるという狂気とも言える決断ができたのか。

今回インタビューをして見えてきたのは、決してきれいなサクセスストーリーではない。泥臭く、惨めで、それでも己の魂をつなぎ止めようとした一人の人間の「生々しい闘いの記録」である。

「愛する母のため」に手放した夢と、男気の代償

なぜ彼は、どん底で「書道家」を選んだのか。原点は、香川県引田町で過ごした幼少期にある。  

母子家庭で育った彼は、大の野球少年だった。「自分が高校野球で活躍し甲子園に出れば、女手一つで育ててくれた母親が世間に胸を張れるんじゃないか」。そんな痛いほどの純粋な思いを抱いていたが、金銭的な理由で夢を手放すしかなかった。愛する母のためにやりたかったことを諦めた出来事は、大人になっても強烈な後悔として魂にこびりついていた。  

一方で、祖母から「字がきれいであれば何とかなる」と言い聞かせられ通った書道教室。最初は家族が喜ぶからと筆を握っていたが、次第に「書」が好きになっていった。だが、「書道で食べていく」イメージなど湧くはずもなく、親戚が大工だったこともあり、彼はごく自然に建築設計の世界へ足を踏み入れる。  

建築業界で独立した後、藤井さんは、仕事に関わる職人への支払いを大切にしてきた。

しかし48歳の時、大きな未払いトラブルに直面する。藤井さんによると、約5千万円の支払いを受けられず、自身は取引先への支払いを抱えることになったという。裁判では勝訴したものの、最終的に十分な回収には至らず、約5千万円の負債が残った。

この出来事は、その後の藤井さんの人生を大きく左右することになる。

謝罪行脚のどんよりした空と屈辱

絶望の淵で、彼は負債を抱える取引先やかつての仲間の元を1軒1軒頭を下げて回った。

「借金は必ず返していきます。そして、私は今後『書道家』として生きていきます」と。  

「こんな大変な時に何を言ってるんだ!」「借金もあるのに食っていけるのか?」と、多くの人間が激怒し、あきれ返った。コンサルタントすら「今まで通り建築でやれ」と諭した。

だが、その時の彼に恐怖はなかったという。ただひたすらに誠意を見せ、信じてもらうことに必死だったからだ。申し訳なさと理解してほしい気持ちが交錯する中、帰り道は景色を見る余裕すらなく、ただどんよりとよどんで見えた。

それでも心が折れなかったのは、故郷の香川の海や、琵琶湖の北部に足を運び、1人で夕陽を眺めながら「俺はまだやれる!」と己を奮い立たせていたからだ。  

借金を返すため、週4日でトラック運転手として身を粉にする日々。朝3時や4時に起きる過酷な生活の中、1番彼の心が折れたのは「納品先から見下されている」と感じたときだった。

中でもつらかったのが、納品先でのやり取りだったという。取引について尋ねられ、「僕では分からないので上の者に……」と答えると、「なんや、ただの運転手か」と言われたこともあった。ほかにも、納品時にぞんざいに扱われていると感じる場面が重なったという。

そうした経験から、「なんでこんな扱いを受けなきゃいけないんだ」と、怒りや悲しさを感じるようになった。

次第に行くのがおっくうになり、配送の前夜はほとんど眠れなくなった。それでも「一生懸命働こう」と歯を食いしばり、深夜のハンドルを握り続けた。  

鏡の前の自己暗示と、退路を断つ覚悟

「自分が人生を懸けて本当にやりたいことはなんだ?」

板坂裕次郎(いたさか・ゆうじろう)という師匠の下、毎日血を吐くような思いで365日ブログを書き内省し続けた結果、あふれ出た答えが「書道家として生きる」だった。

少年時代、野球を諦めたあの強烈な後悔が彼に腹をくくらせたのだ。

また、セミナーコンテストに出場し、自らの言葉で人が感動し背中を押せるのだという確かな手応えをつかんだことも、未来への大きな希望となった。  

さらに彼は、「これでもうダメだったら全部詰む」という背水の陣で秦卓民(はた・たくみ)さんというコーチのもとへ飛び込み、マーケティングとコーチングを学んだ。そこで「自分はなんだってできる」という一切否定されない絶対的な承認を得たのだ。  

「どんな逆境も乗り越えるのが美徳だ」と思っていた彼だが、その設定こそが自ら逆境を引き寄せていることに気づく。

「もう逆境はお腹いっぱいです。いりません!」とスパッと過去を断ち切り、設定を書き換えた彼は、毎朝鏡の前で「俺は十分幸せだ。なんだってできる」と口にするようになった。たまに「そうは言ってもな」と弱気になっても、口に出せば不思議と勇気が湧いてくる。

脳科学の研究によれば、脳は『見たもの』と『想像したもの』を別々に処理しないことがわかっており、想像が十分に強ければ主観的に現実と区別できなくなると言われている。

その泥臭い自己暗示は、確実な行動の変化を生んだ。それまで受け身だった彼が、「自分の書は価値をお届けできる」と信じ、自ら堂々とセールスできるようになったのだ。  

その執念が実を結ぶ。トラック運転手の仕事を「辞める」と退路を断った途端、不思議と書道家としての大口の仕事が舞い込み始めたのだ。  

魂を伴走する書。そして未来へ

現在、藤井さんはただきれいな文字を書くのではない。社長に直接インタビューを行い、心の奥底にある情熱の源泉を引き出し、経営理念として「書」にする。AIやデジタルには決して代替できない、血の通った「魂の伴走」だ。  

「自分の可能性を自分で諦めるな!何歳からだって本当にやりたいことで生きていける」  

地獄を見てきた男の言葉には、やけどしそうなほどの熱がある。今後、彼は「人生と可能性を開く書」をテーマにした講演活動やワークショップを全国で展開していく予定だ。  

最後に、ぼくは自分自身に問わずにはいられなかった。

世間の正論や年齢、お金を言い訳にして、本当の人生を諦めていないか。「仕方ない」と自分をだまし、嫌なことを我慢ばかりする人生を送っていないか、と。

※写真は全て藤井さんからの提供

情報

藤井翔夢さんの今後の活動についてはInstagramをチェックしてください。
https://www.instagram.com/shomufujii_official

情報提供元:ローカリティ!

松井創
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