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中東依存のまま再エネを掲げる日本——ホルムズ海峡リスクが浮き彫りにする矛盾

ホルムズ海峡は、なぜ日本にとって特別な航路なのか

ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐホルムズ海峡は、幅わずか約50kmの細長い水路でありながら、世界で流通する石油の約20%、LNG(液化天然ガス)の約25%がこの海峡を通過するとされています。国際エネルギー機関(IEA)の統計によれば、日本が輸入する原油のうち約90%は中東に由来しており、そのほぼ全量がホルムズ海峡を経由して日本へと届いています。つまり、この海峡で何らかの封鎖や輸送障害が発生した場合、日本のエネルギー供給は即座に根本から揺らぐ構造になっているわけです。

2024年以降、イスラエルとイランの緊張関係が高まる中で、ホルムズ海峡の安全保障リスクは市場関係者の間で再び強く意識されるようになりました。原油先物価格は地政学的緊張が高まるたびに急騰し、その影響は日本国内のガソリン価格や電力料金に波及してきました。資源エネルギー庁の調査では、日本の2023年度における電源構成のうち、天然ガスによる発電が約33%、石炭が約31%を占めており、化石燃料への依存が依然として全体の6割以上に及んでいることが分かります。経済産業省が掲げる2030年度の再生可能エネルギー比率目標は36〜38%ですが、2023年度実績は約22%にとどまっており、目標との乖離は小さくありません。

 
日本のエネルギー自給率が上がらない構造的な背景

日本のエネルギー自給率は、2022年度時点で約12.6%(資源エネルギー庁「エネルギー白書2024」)です。IEAのデータによれば、同年のフランスは約55%、ドイツは約35%、アメリカは約100%超を達成しており、日本がいかに突出して低い水準にあるかが分かります。この数字の低さには、複合的な構造問題が絡み合っています。

まず大きな要因として挙げられるのが、国産エネルギー資源の絶対的な乏しさです。日本は石油・天然ガスの産出量がほとんどなく、国内で賄えるエネルギーは水力・地熱・太陽光・風力などに限られています。地熱資源に関しては日本は世界第3位の埋蔵量を誇るとされているものの、開発可能な地域の多くが国立公園や温泉地と重複しており、2023年時点での地熱発電の設備容量は約60万kWと、全発電量に占める比率は1%未満にとどまっています。規制の壁と地域住民・温泉事業者との調整コストが、資源開発の実用化を阻んでいると言えるでしょう。

次に見逃せないのが、2011年の東日本大震災以降に生じた原子力発電の空白です。震災前の2010年度、原子力は日本の電源構成の約26%を担っており、エネルギー自給率のかさ上げに大きく貢献していました。しかし震災後に全基停止した原発は、2024年6月時点で再稼働しているのが12基にとどまり、震災前に稼働していた54基から大幅に少ない状態が続いています。原子力を自給エネルギーと位置づけた場合の自給率は約20%程度になるとも試算されており、この空白が中東依存の深刻化に直結してきたと考えられます。

 
備蓄・代替調達・再エネという「三つの応急処置」の限界

日本政府はエネルギー安全保障の観点から、国家石油備蓄と民間備蓄を合わせて約187日分(2023年度末時点)の石油在庫を確保しています。一見すると半年分の余裕があるようにも見えますが、ホルムズ海峡が長期にわたって封鎖された場合のシナリオは、石油だけでなくLNGの途絶も同時に想定しなければなりません。LNGは性質上、大量の長期備蓄が技術的に難しく、国内タンクの保有量は通常2週間〜2カ月程度の運転分に相当するとされています。電力の約33%を天然ガス火力に頼る現状では、LNGの供給停止は電力不足に直結しうる問題です。

代替調達ルートとして、アメリカ産シェールオイルやオーストラリア産LNGへの分散調達が進んでいるのは事実です。2023年度の日本のLNG輸入先を見ると、オーストラリアが約40%で最大の供給国となっており、中東への依存が原油ほど高くないのは救いと言えます。しかし原油に関しては依然として中東依存の構造が崩れておらず、代替調達には輸送コストの上昇と調達先との長期契約交渉という現実的な障壁が伴います。

再生可能エネルギーの拡大については、太陽光を中心に導入量は急増しており、2023年度末時点での太陽光発電の累積設備容量は約87GWに達しています。ただし、太陽光は天候依存性が高く、出力変動を補う蓄電池インフラや系統整備が追いついていない状況です。加えて、日本は山地が国土の約73%を占める地形的条件から、大規模な太陽光・風力発電に適した平地が限られており、欧州やアメリカと同じモデルをそのまま適用できないという地理的制約もあります。これらの要素が重なることで、再エネの拡大が自給率の大幅改善に即座につながらない現実が生まれています。

 
エネルギー自給率を「上げる」ために日本社会が直面する選択

資源小国という前提を変えることはできない以上、日本が自給率を高めるには、使うエネルギーの量そのものを減らす「省エネ・需要側の効率化」と、国内で生み出せるエネルギーを最大化する「供給側の多様化」を同時に進めるしかありません。日本のエネルギー消費量は、産業構造の変化や省エネ技術の普及により2000年代以降は減少傾向にあり、2022年度の一次エネルギー供給量は2000年度比で約18%減少しています。これは一定の成果ではありますが、自給率の抜本的な改善には至っていません。

原子力の再稼働と新増設については、賛否が大きく分かれるテーマである一方、エネルギー安全保障の観点からその役割を切り離して議論することは難しくなっています。第6次エネルギー基本計画では2030年度の原子力比率目標を20〜22%と設定していますが、現状の再稼働ペースではその達成は容易でないとする見方が多数を占めています。再エネ・省エネ・原子力・化石燃料の分散というポートフォリオをどのような比率で設計するか、日本社会はより具体的な議論を深める段階に来ているでしょう。

ホルムズ海峡のリスクは、遠い中東の地政学問題ではなく、日本の電気代・ガソリン代・食料品の物価を通じて、生活者の暮らしに直結する問題です。エネルギー自給率12%という数字は、日本社会が毎日のように消費するエネルギーの88%を海外に依存しているという現実を示しています。その構造を変えることは、技術的にも政治的にも一朝一夕には成し遂げられませんが、リスクの全体像を正確に知ることが、社会全体で選択肢を議論するための出発点になるはずです。

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